13:30 | 開会挨拶 齊藤正身 老人の専門医療を考える会会長 | |
13:40 | プレゼンテーション(1) 「行政の立場から」 小林秀幸 厚生労働省老健局老人保健課課長補佐 |
講演スライド(PDF) |
14:10 | プレゼンテーション(2)「病院・施設、特に終末期医療等の立場から」 桑名 斉 信愛病院院長 |
講演スライド(PDF) |
14:35 |
プレゼンテーション(3) 「在宅医療、特にリハビリテーションの立場から」 齊藤正身 霞ケ関南病院理事長 |
講演スライド(PDF) |
15:00 | 休憩 | |
15:15 | シンポジウム:医療と介護の「絆」を考える 〜 これでよいのか介護保険!〜 シンポジスト:小林秀幸、木村骼氈A桑名 斉、齊藤正身 フロアアシスタント:田中志子、橋本康子 座長: 齊藤正身 ( 霞が関南病院理事長 ) |
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16:15 | 終 了 | |
開会挨拶 齊藤正身 老人の専門医療を考える会会長 | ||
大川 | 本日は大変お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。総合司会を務めさせていただきます、小樽からまいりました大川博樹と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 |
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齊藤 | 皆さん、こんにちは。齊藤正身でございます。 今年4月から当会の会長となり、会長としてはわたしが4代目です。天本宏先生、大塚宣夫先生、そして前任の平井基陽先生と、偉大な3人の先生の跡を受け継ぐことになり、非常に責任の重さを感じているところですが、3人の先生よりもわたしが勝っているとしたら年齢ぐらいかもしれません。しかし、元気に明るくということをモットーにしてやっておりますので、今日はある意味ではお披露目といいますか、そのようなことになりますので、今後ともぜひよろしくお願いいたします。 さて、今日のシンポジウムですが、先程大川先生からもお話がありましたが、第32回になります。元々この老人の専門医療を考える会は、老人病院にあまりよい病院がないというようにいわれていた昭和60年当時に、「いや、私達はそうじゃないんだ」と立ち上がった病院の院長、理事長が集まって、会が始まったわけです。 そのため、当初はよい老人病院をつくろうということをモットーに活動をしてまいりましたが、世の中の情勢がいろいろ変わってきて、介護保険の制度も始まったり、療養病床もできたり、そのような中で、ただ単に老人病院という、従来の枠組みではなくて、私達は老人医療、特にそれに携わる医師であり、経営者の集団ですから、そのような人たちが今後の高齢者ケア、医療の在り方を考え続けようというシンポジウムとして続けてきました。 当初は、抑制について、あるいは寝たきりに対する対策やアプローチ、具体的な対処方法について、あるいは認知症のことというような、現場の具体的事例に触れた内容のシンポジウムがずっと続いてまいりました。会長が今回わたしに替わりましたところで、少し仕切り直しといいますか、できるだけ今の世の中にマッチ、フィットする形のテーマにしていこうということで、「これでよいのか介護保険!」をサブテーマにさせていただきました。 実は今年3月に行われました前回のシンポジウムの時は、高齢者医療制度は本当にこのままでよいのかというところでシンポジウムを締めくくりました。結果的にはそれから半年もたたないうちに大きな問題になりましたので、やはり発言を継続していくといいますか、提案をしていく、あるいは意見を述べていくことは大事だろう思います。それらの思いから「これでよいのか介護保険!」というサブテーマにしたのはあまりに大きすぎるかもしれませんが、私達は介護力強化病院とか、療養病床とか、そのような病院を介護保険制度ができる前から経営している会員の団体です。医療と介護の両方を最初から一緒に考えながらやってきた団体ですので、介護保険の制度導入時にもかかわりを持った会員が非常に多く在籍しています。そして今も継続して実践している現場の立場から、介護保険という制度自体を、今までのスタイルありきでいくのではなくて、一度、一から見直すようなシンポジウムがあってもよいのではないかと思い、このような大それたテーマにさせていただきました。 今回、テーマ自体は「医療と介護の『絆』を考える」とさせていただきました。本来ならおそらく、「医療と介護の連携」という言葉がよく使われるところかと思います。この「連携」という言葉は、介護保険の制度が始まる前から使われていました。しかし、いまだに「連携、連携」と言われているということは、やはり連携がうまくいっていないからでしょう。ここでの「連携」とは、鎖や電車とか汽車でいう連結器のようなものによる弱く細い連携ではなくて、もっと強く太いものです。あるいは協働といいますか、一緒に働く場の共有ではないかと思い、そのような意識を持つためにも、あえて今回は「絆」という表現にさせていただきました。 医療が必要な人や、介護が必要な人が、医療や介護だけを必要としているのではなく、もう片方も必要としていることは、皆さんご承知のことだろうと思います。そのあたりの関係をまた一から考えてみてはどうかということで、「医療と介護の『絆』を考える 〜これでよいのか介護保険!〜」というテーマにさせていただきました。 今回は民主党の方にも声をかけさせていただいて、シンポジストのお願いをいたしましたが、残念ながら都合がつきませんでした。次回には民主党の方も出てくださるというお話ですので、それを楽しみにしておりますが、今日は厚生労働省老人保健課から課長補佐の小林秀幸先生が来てくださっております。 今、厚生労働省内も民主党による仕分け作業の最中で、先ほどお話をお伺いしましたら、介護保険関連や老人保健関連は、来週仕分けの議場に上がるというお話をされていました。後ほどそのようなお話にも少し触れていただけると思いますが、本日は快く来て下さいましたので現状をお話ししていただこうと思います。 またケアマネジャーの協会である日本介護支援専門員協会の会長の木村骼汾謳カは、所用のためシンポジウムから参加してくださるということです。 桑名斉先生とわたしは、老人の専門医療を考える会の会員としての立場で、病院施設、そして在宅の医療と介護の在り方について、述べさせていただこうと思っています。 シンポジウムの場では、木村骼汾謳カを交えまして、ケアマネジャーと医療ということに少し焦点を当てることができればと思っていますが、本日のシンポジウムですべてを語ることはできませんし、今回の第32回目のシンポジウムを、仕切り直しの第1回と考えて、これから年1回、2回、シンポジウムを開催したいと思っています。本日は、じっくり皆さんのご意見もお伺いしながら、次につなげていくことができればよいと思っています。 最後になりますが、私達の会というのは、決して政治的な動きをしようとか、そのようなことではなくて、今私達の周りにいる方々によりよいケアをどう提供できるのか、そして地域の中で私達がどう活動できるのかということを大事に思っています。そのような延長線上に今回のシンポジウムもあることをご理解いただいて、参加いただければありがたいと思います。 これからプレゼンテーションが始まり、シンポジウムへと長時間にわたる会となりますが、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。 |
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大川 | 齊藤会長、ありがとうございます。 今日の進め方について簡単にご説明させていただきます。会長から説明致しましたように、配布致しましたプログラムに従い、プレゼンテーションが三つ、休息を挟みましてシンポジウムを行います。この時にはフロアからのご意見、ご質問をお受け致しますので、われこそはという方は、時間の制限もございますけれども、ぜひ手を挙げてご発言していただきたいと思います。 |
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プレゼンテーション(1) 「行政の立場から」 小林秀幸 (厚生労働省老健局老人保健課課長補佐) |
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厚生労働省老人保健課の小林秀幸でございます。わたしからは「行政の立場から」ということで、最初に話題提供をさせていただきたいと思います。 本日のシンポジウムのテーマが「医療と介護の『絆』を考える」ということで、サブテーマが「これでよいのか介護保険!」となっています。「これでいいのか」と聞かれて、「いや、だめです」ということはなかなか立場上言えないところでありますが、行政としてもいろいろ課題があると認識いたしております。そのようなところをざっくばらんにお話したく思います。 たくさんスライドを用意していますので、ぽんぽんと早口で細切れになってしまうかもしれませんので足りないところはご指摘下さい。それでは説明を始めさせていただきます。 「地域包括ケア」は、最近、わたしども厚生労働省老健局でよく使っている言葉です。前回の法改正の時も地域包括という言葉が、地域包括支援センターとか、そのような名前で出てきていますが、地域で包括的にケアを提供する体制整備の道筋をつけ、病院等の医療機関中心ではなくて、住み慣れた地域で高齢者や地域住民が生活するための包括的な支援が必要だという、そのような理念をあらわした表現です。 このスライドではキーワードだけを並べております。1982年、老人保健法の制定とありますが、改めて申し上げるまでもございませんが、先ほど齊藤先生からもお話がございましたように、昭和50年代、いわゆる老人病院というのが非常にたくさん増えてきました。そこで適正な医療の供給をするために病床を規制していく必要があるのかということで医療計画が医療法上位置づけられました。病院と在宅の中間的な施設、あるいは医療と福祉の中間的な施設という意味合いで、老人保健施設が創設されます。その後、1989年にゴールドプラン、1992年に療養型病床群、それから2000年に介護保険の制度が導入されたというのが歴史的な経緯としてございます。 次のスライドは、最近の傾向ですが、これらのキーワードも皆様よくご承知の内容と思いますが、2006年に高齢者医療制度が制定されます。それから同じ時期にがん対策基本法制定、あるいは2007年の在宅療養支援診療所の導入へと続きます。さらに医療費の適正化計画、医療計画の見直しというのが昨年ございました。一番下の2012年に介護療養病床の廃止というのが前回の法改正に盛り込まれておりまして、これはまた、後ほど時間がありましたら、少し言及したいと思います。 このスライドは日本の人口の推移を示したものですが人口のピークはもう過ぎておりまして、これから国全体の人口はどんどん減っていくと推測されています。その中で、確実に高齢者の人口の占める割合が増えてきます。とりわけ65歳から74歳という、いわゆる前期高齢者といわれる方々は横ばい、やや上昇をたどるのですが、75歳以降の後期高齢者、この後期高齢者という名前は非常に批判を招いておりますけれども、75歳以上のお年の方がどんどん激増していくということがいわれております。 このスライドは、高齢者を世代ごとに分類したものです。かつては、明治時代生まれの人が高齢者の中心でした。少し前の2000年では、大正生まれ、昭和ヒトケタ生まれが大半で、両群の割合が拮抗していました。2005年では、大正生まれ、昭和ヒトケタ生まれ、戦中生まれが、ほぼ1:1:1のウエートなのですけれども、これから大正生まれの方が亡くなっていき、それから昭和ヒトケタの方も減っていきます。現在からこの先には、戦後生まれの方がどんどん増えてくるというような状況がやってきます。 2015年になりますと、戦後生まれの、いわゆる団塊の世代が高齢者に達します。2025年には日本の高齢者の人口が現在の1.5倍になる予想です。数でいいますと、15年間で1,000万人ぐらい増えるというような状況です。 そのように高齢者が増えるという中で、特に高齢者の独居暮らしの方も増えてくることが予測できます。それから高齢者の夫婦のみの世帯では、老々介護ですとか、あるいは認知症を持った夫婦間でそれぞれを支え合うという、認々介護等という言葉もありまして、高齢者同士の世帯も増えてきます。そのような中で、介護力を、家庭介護という枠組み内で十分に期待できるのかどうか、独居暮らしの高齢者に対するサポートをどうするのかというのが非常に大きく、国家的な課題になっているという状況です。 このスライドは、現在の高齢者単身世帯における要介護度の分布状況ですが、要するに単身世帯で、軽い方もさることながら、特に要介護度3以上の重い方が劇的に増えているという状況です。高齢者人口全体の伸びよりも、独居高齢者の世帯の伸び率が高いという現状も見られます。 今後、急速に高齢化が日本全国で進んできます。とりわけ大都市圏と、それ以外の地域、例えば、鹿児島・山形・秋田などとでは、高齢化の進行度に顕著な違いが見られます。 後者についても、県庁所在地があるような都市部では比較的人口は集積しているのですが、山間部や離島など、へき地では過疎化が進んでいます。そして、そのような地域ではもうすでに高齢化も進んでおり、これからの高齢化の伸びは10年間で約10%ということですので、年間1%ぐらいの伸びにすぎません。 それに対して埼玉・千葉・神奈川といった大都市圏では、これから10年間で50%程度高齢者が増加するということです。年間ベースにしますと、5%ぐらいの勢いで高齢化が進んでいくという状況です。 このスライドはちょっと字が小さくて恐縮なのですが、各都道府県の65歳以上の人口に対する介護保険施設(特養・老健・介護療養施設の合計)の整備状況です。左右の囲んだグループの比較ですが、一般的にこちらの右側の部分というのは、東京、千葉、埼玉、大阪などの大都市圏ですが、高齢者に対しての介護保険施設の数が絶対的に少ないグループです。それに対して左側のグループは比較的これから高齢者の人口の伸びが少ない地域で、全国平均の32.4%を下回っています(福岡県を除く)。これらグループの地域では、介護保険施設の数は比較的恵まれています。 このあとにも話題となるかもしれませんが、国全体の方向性としては在宅を重視するということ、すなわち、施設での処遇から地域でのコミュニティケアにシフトするというのは、一つの大きな方向性と位置づけられています。しかしながら、従来型の施設が全く必要ないわけではありません。大都市圏では絶対的に施設の数が少ないということが、問題となっております。 日本は戦後間もないころでは、80%以上の方が自宅で亡くなっていました。自宅で亡くなるのが当たり前の時代だったわけですが、時とともに、自宅で亡くなる方は非常に数が少なくなってきまして、ちょうど1975年ぐらいに逆転しました。今では8割もの方が病院・診療所で亡くなっています。 次は、これは若干雑談になりますが、わたしは今の老人保健課に異動になる前は、逆に赤ちゃんとか妊婦さんの対策の仕事をやっていました。実は赤ちゃんが生まれる場所も、先ほどの日本人が死ぬ場所のグラフと同じような歴史的な経緯をたどっています。赤ちゃんが生まれる場所として、自宅と病院の割合の逆転現象が、死亡場所の逆転よりも15年ぐらい前に起こっていたのです。 何が言いたいかと申しますと、社会科学の専門家の中には、人間の生存が医療に取り込まれてきている、社会が医療化をしているのだと、そのような言い方をする先生がいらっしゃいます。文化形態・社会形態として、日常生活の隅々にまで医療が密着な関係を持つようになっており、生まれる場所、それから亡くなる場所という、人生の始まりと終わりの場が自宅から次第に病院へと移ってきているというところが、これまでの日本の現象です。 死ぬ場所は、今日本では80%が病院で、自宅で亡くなる方がせいぜい10何%という話をしましたが、国際的に見て、日本とスウェーデン、オランダなどを比較してみますと、日本との構成比の違いが顕著なオランダ、スウェーデンは、病院と自宅以外にも、ナーシングホームとか、ケア付き住宅が、オランダ32.5%、スウェーデン31%と高い割合を占めています。要するに自宅でも病院でもないような場所で亡くなる方が比較的多く、3分の1ぐらいを占めているというのが、欧州諸国の特徴です。 これからのスライドは、5年ごとに行っている「終末期医療に関する調査」についての結果です。「あなたが余命6ヶ月以内の末期状態になったとします。その場合にどこで療養をしたいですか。どこで看取りたいですか」ということを、アンケート調査をしたものです。その結果、大体6割ぐらいの方が自宅で療養生活を送りたい、最後の最後まで自宅でもよいという方が1割ぐらいいらっしゃるというのが、アンケートの結果です。 ただ、実際には、なかなか自宅で療養することは容易でありません。この理由を聞いてみますと、例えば往診してくれる医者がいない、看護師さんがいない、あるいは介護の体制も整っていない、24時間相談に乗ってくれるところがないという話もありますが、家族に負担がかかるのではないかとか、あるいは症状が急変した時の対応に不安であるというところが比較的理由として多く挙げられています。 本人が在宅での生活を希望するのであれば、前述の不安を取り除く体制を整備することによって、それがかなうようにするのが課題となっています。 このスライドは、訪問看護の利用人数と自宅死亡の割合を示すものです。ばらつきはありますが、全般的な傾向といたしまして、訪問看護が充実している地域においては、在宅での死亡の割合が高いということです。一つの方向性として、訪問看護が提供され、自宅で看取るためのきめ細かいサービス提供を行ってくれるような状態であれば、病院よりも住み慣れた自宅で看取りたいという希望が、かなえることができるのではないかといえるかもしれません。 このスライドは高齢者の施設なのですが、スウェーデンのところを見ていただきますと、サービスハウスですとか、ナーシングホームとかがあり、デンマークではプライエボーリ(介護住宅)ですとか、エルダボーリとか、いろいろな言葉がございます。これを日本で考えた場合には、日本における特養とか老健といったような、老人のための従来型の施設よりも、グループホームとか、あるいは最近日本でも高齢者向けの賃貸住宅といったような形態のものが増えてきておりますけれども、そのような高齢者のための、自宅でもない、病院でもない住まいの場です。その供給量がデンマーク・スウェーデンといった国々と比べて、日本は非常に少ないです。今後そのような高齢者のための住まいの整備を一層推進することが必要となっています。 このスライドは、左から右まで医療サービスの密度の順に並べたものですけれども、高齢者専門賃貸住宅(高専賃)、あるいは軽費老人ホーム、有料老人ホーム、または小規模多機能型居宅介護事業所、グループホームと、いろいろな新しい形態のものの整備が進んできているという状況です。 介護保険の現状についてのスライドです。平成12年から介護保険法が施行されております。施行後、この10年間で予算が倍になっています。それに伴いまして、1人当たりの負担につきましては、当初の第1期では、全国平均にしますと1人当たり一月2,900円という負担だったのですが、第4期の現在では4,000円を超えているところです。サービス供給量もどんどん増えてきています。 要介護度別に認定者を見たスライドです。どの要介護度の方々も増えてはいるのですが、特に目立つべきところが、比較的軽度の方、要支援1、2、あるいは要介護1です。平成12年と比べて平成21年では238%増、2倍以上になっているということです。最も介護を要する要介護度4、5のところでも約170%増ですので、要介護度の度合いが低い人たちの間で認定者の伸びが著しいということです。 このスライドは要介護度別の原因疾患です。特徴的なところが、いわゆる脳卒中です。脳血管障害、脳梗塞や脳出血なのですが、要介護の4、5といった要介護度の高い方については脳血管障害の占める割合が比較的高いです。それに対しまして要支援1、2、あるいは要介護1といったところでは、いわゆる虚弱ですとか、関節疾患、骨折・転倒といった廃用症候群というところがウエートとして非常に高いです。それから要介護高齢者においては、要介護のレベルにかかわらず認知症の患者さんが20%ぐらいの割合を占めています。 脳血管障害対策については、メタボ対策の一環として総合的な対策が進んでいるところなのでしょうが、廃用症候群の対策を進めることによって、要介護高齢者の増加を抑えることができるのではないかと思います。認知機能の低下に対するサービス提供をどう充実していくのかということも、大きな課題になっております。 年齢による要介護認定率の違いについてのスライドですが、65歳から74歳のいわゆる前期高齢者では4.5%なのですが、75歳以上になりますと30%になるということで、約6倍の差がございます。よく後期高齢者という名前が、高齢者を分断するのでよろしくないという意見もいただくのですが、もちろん個人差はありますが、生物学的にいって、やはり身体機能の衰えというのでしょうか、心身機能の衰えが75歳前後で顕著に表れるのは否定しがたい事実だという議論もございます。 実際、要介護度の認定率に差が出てくるのですが、ちょっとお話を変えまして、高齢者は従属人口だといわれることがあるかもしれません。どのようなことかといいますと、高齢化社会で何が困るのかというと、就業人口に対して高齢者、要するに若い人が何人で高齢者を1人養うのかといったところで、老年人口指数を用いると思いますが、今現在は0.3ぐらいです。若者3人で高齢者1人を養っていることになります。それが10年後には、若者2人で高齢者1人を養わないといけない。そうすると、社会の活力がそがれるのではないかというような、悲観的な意見が聞かれることがございます。 これに対して幾つか批判があるのが、いや、支えられるのは高齢者だけではないだろうというもので、子供もやはり社会にとって従属、支えられる側の立場なので、高齢者のみだけではなくて、子供の数も含めて計算するべきではないかというような批判です。 それからもう一つあるのが、高齢者といっても65歳から75歳を一律に支えられる側と見なすのではなくて、むしろ支える側に回るような社会を目指すべきではないかという考え方で、15歳から75歳以下を支える側、それで、15歳未満と75歳以上は支えられる側の従属人口という考え方で計算してみますと、全く違ったグラフになります。 そうすると、何が言えるかといいますと、要するに65歳から74歳という、いわゆる前期高齢者といわれる方の中で元気な方、生涯現役という言葉もありますが、このような世代の方が元気よく健康に生活し、社会を支える側に回ることによって、社会にとっての活力が維持できるのではないかというような考え方もできるかと思います。 このような観点から、予防重視型システムへの転換をはかるため、平成17年に法改正がなされました。これは事後的に病気になってしまった、あるいは要介護状態になってしまった方に対するサービスを提供するというよりも、要介護状態となることを事前に防ぐ予防を重視する、すなわち国民一人一人が健康に気を遣って、財源的に給付の抑制が目的ではなく、高齢者の自立を支援し、元気になって社会を支える側に回っていただく、そして要介護高齢者を社会全体で支え合うような仕組みが必要ではないかという考え方です。 それからサービスの質の向上ということ。これもまた後ほど触れますが、このような観点から17年の法改正がなされております。 このスライドのとおり、平成17年に要介護者と要支援者と2者に分けまして、要支援者に対しては新予防給付というカテゴリーで、従来の介護給付とは法律上構成を切り離しました。それから要支援にも該当しない、比較的軽い方であっても、そのうち要支援・要介護状態となるかもしれません。このため、要介護状態等となるおそれの高い虚弱な状態の高齢者を特定高齢者と定義し、地域支援事業・介護予防事業によるサービス提供が始まっております。 実は介護予防事業の創設に際し、虚弱な高齢者に筋トレをやらせてどうするのだという批判を受けたりしたこともございます。実は来週これが、先ほど齊藤会長のからもお話がありました、事業仕分けの対象になって、ちょっと戦々恐々としているところなのですが、この事業は政策的に非常に重要なものだという認識を持っております。 認知症の患者さんも、これからどんどん増えてきます。認知症対策もいろいろな切り口でやっております。このスライドはちょっと字が小さくて恐縮ですけれども、後ほどご確認いただきたく思います。 話題が変わりますが、福田政権下で社会保障国民会議といって、今後の医療介護サービスをどうしていくのかという検討が、官邸で行われました。今後医療の機能分化を進め、急性期医療を中心に人的・物的支援を投入する、それからできるだけ入院期間を減らして、早期の家庭復帰・社会復帰を実現すると同時に、在宅医療・在宅介護を大幅に充実させる、地域において包括的なケアシステムを構築する、そして、利用者・患者のQOLの向上を目指す、そのような観点から、実際どの程度の医療、どのような医療体制が必要か、マンパワーや、施設の供給をいかにして目指すかという観点から整理がなされております。 現在、一般病床、療養病床、老人保健施設、特養、居住系施設などの医療・介護の施設が存在しますが、この一般病床というカテゴリーを、急性期病院と位置づけて数を絞って、救急疾患などの患者さんに対しては積極的にマンパワーや資金の投入を図っていきます。それから、ある程度回復した患者さんに対しては、亜急性、あるいは回復期の病棟を一定数確保します。 さらに、長期間入院するような、現在の療養病床に相当するような病床も一定数確保します。それに対して、老健、特養といった従来型の介護保険施設も一定数確保した上で、居住系施設の大幅な整備を進めるという考え方です。 このスライドのピラミッドは、2025年における医療・介護サービスの需要・供給をシミュレーションしたものですが、左の図は、今後の需要の伸び数を、現在の施設類型の分布を前提として均等に割り当てた場合の必要病床数の予測ですが、真ん中、右側の図は機能分化を進めめりはりをつけた場合の予測です。 時間があまりなくなってきましたので、駆け足でもう少し説明させていただきます。 このスライドは21年度の介護報酬の改定についてです。皆さんご存知のとおり、介護従事者の人材確保・処遇改善というのが非常に大きな政策課題になっているということです。前回、前々回と介護報酬のマイナスが続いてきたわけですが、トータルすると3%のプラスになったということです。これについては基本報酬単価をプラスするというよりは、いろいろな加算をつけていくというやり方で対応しております。それから医療との連携、あるいは認知症ケアの充実を図る、それから、サービスの質を確保した上での効率的かつ適正なサービスの提供という観点から、いろいろな加算がなされています。 それから右側の図は、処遇改善の取り組みについて、介護報酬以外にもいろいろな取り組みをやっているということです。 介護が必要となっても、住み慣れた地域で自立した生活を続けることができるよう、医療と介護の継ぎ目のないサービスを効率的に、効果的に利用できるような観点から、評価の見直しを行っています。 今後の課題については、社会保険である介護保険が担うべきサービスの在り方・範囲をどう考えるのか、介護サービスの質をどう担保するのか、介護現場の実態を介護報酬にどう反映させるのか、高齢化がさらに進展することに伴い、質の高い介護従事者をどのように確保するのか、高齢者・要介護者が増えることから、必要な医療サービス・介護サービスをどのように担保するのかということが、今後の課題として、介護給付費分科会において指摘されています。 次に、人材確保の点に触れさせていただきますけれども、要介護の担い手、介護職員の見通しについてのスライドです。今後、就労者人口は減ってくるのですが、一方で必要とされる介護職員の数は増えてきます。そのような中で、良質な介護職員、マンパワーをどのように確保を図っていくかということが大きな課題となっております。 ただ、一般論として、このスライドのように介護職員の賃金水準が低いです。ほかの産業別に見ましても低く、あるいは同じ医療福祉のジャンルの中で職業別に見ましても、ホームヘルパー、福祉施設の介護職員の賃金水準が低いというところが指摘をされております。 そのような観点から、このスライドは今年度の補正予算により、介護の拠点等の緊急整備を図るとともに、現任の介護職員に対する研修支援や地域包括支援センターの体制強化を進めています。当初、第4期の事業計画では、21年から3年間で、23万人の介護の雇用を創出するという見込みだったのですが、補正予算でさらに7万人分の上乗せをしていくというような構想になっております。 ご存知の方も多いと思いますが、介護職員処遇改善交付金につきましては、先般、長妻大臣から「政権交代したのですが、この部分は100%予算をつけるのでぜひ活用ください」と言われました。約1か月前の時点で、全国で48%の事業所から申請を受けていたのですけれども、今週の時点で74%まで伸びています。未申請の事業所についても、引き続き交付金の申請を行うよう厚生労働省としては呼びかけています。 このスライドは、今回の介護報酬改定の中で、質の評価について検討されましたが、介護サービスの質をどのように担保するのか、どのような指標で評価するのか、介護サービスの情報公表制度との関係をどう整理すべきか、といったことが今後の課題となっています。 小さい字で下のほうに書いてある参考の部分で、線が引いてあるところを読ませていただきますと、「介護従事者の専門性等のキャリアに着目した評価」ということで、「介護従事者の専門性等に係る適切な評価及びキャリアアップを推進する観点から、介護福祉士の資格保有者が一定割合雇用されている事業者が提供するサービスについて評価を行う」ということで、今回「サービス提供体制強化加算」を新設いたしました。 しかし、これが本質的な質の高さの評価として適切かについてですが、一番下にあるように「本来、質の高いサービスを提供する事業所への適切な評価を行うことにより、処遇改善を推進すべきであるが、現時点においては、質の高いサービスを図る客観的な指標として確立したものはない。このため、今改定においては『介護福祉士の割合』に加えて、『常勤職員の割合』、『一定以上の勤続年数の職員の割合』を暫定的に用いることとするが、サービスの質の評価が可能と考える指標について、早急に検討を進めることとする」とうたわれております。 介護福祉士の資格を持っている介護職員の割合、介護職員の勤続年数と、それから常勤職員の割合と、それらがいずれも高いところは、恐らく質の高いサービスが提供されているのではないかという仮定のもとに、このスライドのように、サービスごとにパーセントの数字は違いますが、いずれも、このような条件を満たす場合には24単位、12単位、6単位加算といったように加算が設けられております。 ただ、このスライドにありますように、加算に対するいろいろな意見がありまして、質の評価については、その判断基準をどう設定するのか、非常に難しい問題です。 今回のシンポジウムに先立ち、「老人の専門医療を考える会」の25周年の記念誌をいただきましたので、目を通してみましたところ、初期のころから老人医療の質の評価が非常に大きな課題とされてたことがわかりました。介護の質をどう担保するのかということが、ずっと昔のニュースレターで書かれているのですが、今なお質の評価がなかなか難しいということなのでしょう。 例えば第三者機能評価として、医療機関においては日本医療機能評価機構による評価が行われております。またこの会でも『老人病院機能評価マニュアル』を作られて、様々な取り組みを進められているとのことですが、福祉の世界では評価に慣れておらず、病院の世界よりも、さらに評価に対する取り組みが遅れているという認識をもっております。 どのような形でこの質の評価をやっていくのかが、次回改定に向けての一つのポイントになると思っております。この会でも慢性期医療の臨床指標を設けて質の向上に取り組んでおられますが、質の評価に臨床指標などを取り込んでいくのかどうかも、医療と介護の連携という切り口からも、議論すべき点かと考えております。 以上、早口になりましたけれども、話題提供させていただきました。ご清聴ありがとうございました。 |
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プレゼンテーション(2)「病院・施設、特に終末期医療等の立場から」 桑名 斉 (信愛病院院長) |
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信愛病院院長、桑名斉と申します。厚生労働省の小林先生と比較しますと、ちょうど父親の世代になるのではないでしょうか。わたしもあと数年経つと、前期高齢者になります。まさに介護保険を使わなければ生きていけない世代に入っていきますので、そのような立場から、これからどのようにすれば自分は幸せになれるのだろうかという思いを込めて、身近な話題からお話ししていきたいと思います。よろしくお願いいたします。 介護保険制度で何が変わったかということについて、まず、医療と介護を分けようという最初のもくろみがありました。今回のテーマは『絆』ですから、分化というのはまたちょっと意味が異なりますが、本質的な医療と介護の違いというのをしっかりととらえていこうというのが、趣旨であったと思います。 医療を四つに分けますと、予防と急性期と慢性期、それから終末期に分かれます。それはどのようなことかというと、生活者の視点で見ますと、一つの病気でもそれぞれの時点においてかかわり方がだいぶ変わってくるというのが、この医療と介護の相関であると思います。 急性期医療のツールとしては、エビデンス・ベースト・メディスン(科学的根拠に基づいた医療)ということで、質とも関わってきます。今は盛んにエビデンス、エビデンスといわれておりますが、介護になってきますと、先ほど質というのは非常に評価するのが難しいというお話がありましたように、人生、生活等の問題が絡んできますので、エビデンスよりもむしろナラティブ・ベースト・メディスン(物語に基づく医療)というような考え方も入れていかないと、うまくいかないのではないかと思われます。 医療が、介護保険ができる前までは、ずっと介護の肩代わりもしていたわけです。それが、介護保険制度ができまして、今後は、介護というのは家族が苦しんでいるものだけではないのだ、社会全体で見ていきましょうということで、介護が社会化され、オープンになりました。国民の目に見える形になってきたということが二つ目です。 それにつれて国民の認識も変わってきました。いわゆる介護の持つ暗いイメージが、多少明るくなったのでしょうか、そのようにとらえることができるようになったと思います。 移り変わりを模式で表すと、最初の時点では、医療の必要度はそれほど多くなかったわけです。病気を持っていてもほとんどは家族が家の中で介護をしていました。それが、1961年に国民皆保険になり、だれもが医療を受けられるようになってきましたので、それにつれて家族介護が減ってきました。この医療の部分には、介護保険が施行されるまでの介護の部分を、医療が肩代わりしていたということを表しました。介護保険ができまして、家族介護の負担が減って、介護サービスという形で社会化して現在に至っています。 一方、医療は医療として特化していこうという流れが一つにはありますので、介護サービスに任せられるところは任せる形で今に至っているのではないかと思います。この間に駆け込み増床や、介護力強化、療養型病床群ですとか、施設、ハードの面での整備もなされてきました。 要介護の原因についてのスライドです。先ほどもお話しましたが、それぞれの症状が、医療と介護のどの分野とのかかわりがあるのか、その強さの変化を模式で表してみました。 脳血管疾患は、最初は非常に濃厚な医療がなされますが、安定期に入りますとリハビリに移っていきます。リハビリの期間が経過し、回復期が過ぎた時点でも十分に回復できず、社会復帰できなかった患者さんは介護という範疇に入ってきます。 認知症の場合は、医療的には今のところあまり関われる部分がなく、むしろリハビリのほうが効果があるといわれています。短期集中リハの考え方などもそのようなことを表していると思います。でも、やがてはやはり介護に移っていきます。 高齢による衰弱も、医療の部分は少なくて、リハビリもそれほど多くないと思います。ここでも、介護はかなり必要となります。 関節疾患は、手術などももちろんありますが、術後の一時が過ぎますとリハビリを開始します。それが終わりますと、やはり最終的には介護というところに行き着いてしまうということが、この必要度の変化でもいえると思います。 19年度の65歳以上の要介護認定数は約440万人でした。すべての人がすぐに認定を受けるようになるわけではありませんが、最終的には介護のところに至ると予想される人数といえます。 では、生活の場では、医療と介護というのはどのような位置づけになるかというスライドです。自宅で過ごしている場合は家族が介護をします。それから一部分で介護サービスを使います。ホームヘルパーサービスやデイサービス等です。医療は、いわゆる外付けの医療になります。 老健の場合は時々自宅に帰って、時々施設に入る、を繰り返しますので部分介護になります。医療も施設の外から、家にいるときは近所でかかります。特養は、施設内で介護を受け、(施設によって違いますが)部分医療を受けられますが、多くは外からの医療となります。療養病床の場合は、介護も医療も中でまかなうということになります。 スライドの順番が変わりますが、最後から4つ目のスライドをご覧ください。これは在宅ケアができるものはどのようなケースか検討する為に、医療と介護の必要度の高さを軸に医療区分2・3の医療行為で分けてみました。 そうしますと、神経筋疾患(区分2)、あるいはSMON(亜急性脊髄視束神経炎 区分3)がありますが、このほとんどは、医療よりもむしろ介護の必要度のほうが高いと考えられます。一方で、24時間の監視が必要な場合は、やはり医療の必要度が高いということになるでしょう。出血をしている最中は医療になります。もちろん介護も必要ですが、それは一部だと思います。肺炎とかCOPD(慢性閉塞性肺疾患)というのも、「医療だ、医療だ」といわれますが、では、点滴して抗生物質を投与して酸素をやっている間は、その24時間の中でどのぐらいかと考えると、やはり介護の比重がかなり高いと思います。この辺は、在宅ではなかなか見きれない部分が医療側に入ってくるわけです。 スライドの下に分けてあるのは特殊な医療という観点から区別しました。IVH(中心静脈栄養法)にしても、レスピレーター(人工呼吸器)にしても、在宅酸素でも、在宅でもできることと考えると、医療の必要度よりも介護の必要度のほうが高いのではないかと思います。それらが医療区分2、3でもかなりの部分を占めているのではということが理解できると思います。 このスライドは当会の老人病院機能評価表から見た、医療療養病床、介護療養病床、回復期リハの比較ですが、例えば医療・看護・介護の満足度を見ますと、さほど大きな違いはないのです。特に医療療養や介護療養がある部分で勝っているというわけではなく、非常に接近した数字が出てきます。つまり、この会の会員病院の中では、どの種類の施設でも、同様の質の高いサービスが提供できているということが分かります。回復期リハに関しては、母数が6と少ないので、これだけでは判断できませんので参考までの掲載としておきます。 看取りのターミナルケアの話に移っていきます。特に慢性疾患の場合、看取りの場所はどこがいいのかといういろいろな議論を常にしております。看取りの場所は、在宅、介護保険施設が主体になって、医療機関とありますのは、療養療養も医療機関になりますから、慢性期の患者さんを扱っている場合には看取りの場になります。急性期だけに限ればやはり医療機関、病院で亡くなることが多いことになります。80歳から90歳代で年間大体100万人の死亡があります。小林先生のお話にもありましたように8割の方が医療機関で亡くなっております。2030年には160万人の年間死亡者が出るのではないかという推定がされています。 病院の看取りのキャパシティを現在の100万人と仮定しますと、20年後に増えた60万人の方は、一体どこで死んだらいいのかということが、これからの大きなテーマになってくると思います。最終的には、本人なり家族が選べるような場所を準備するのが、われわれ提供サイドの使命になるのではなかろうかと思います。 自分のところの、介護療養型医療施設と介護老人福祉施設の中での比較をしてみたいと思います。 このスライドは2008年度の両施設での死亡者です。69名が介護療養です。特養では病院に移って亡くなった方が19名、特養の中で亡くなった方が19名と同数です。年齢と介護度にちょっと差があります。特養で急変なり、合併症なりが出た場合に比較的介護度の軽い方が病院に移られる傾向があるのですが、この背景には家族が医療を受けることによって回復してほしいという希望があるようです。 これは原疾患についてのスライドです。脳血管疾患等、それほど施設によって差がありません。 死因について比較したスライドです。やはり呼吸器疾患、呼吸不全が多いです。特養で亡くなった場合は死因がはっきりしないので、心不全、急性心不全、うっ血性心不全というような死亡診断書名になっています。これも細かく分ければ、肺炎や呼吸不全があるのではないかと推測されます。 ターミナル期間について比較したスライドです。介護療養と特養の中で死亡した場合とそれほど差はありません。 死亡者の意思確認に関する比較のスライドです。現在当施設では、よく意思確認をしましょうと呼びかけを行っているところです。積極的な治療を希望する方は、むしろ特養のほうが多いです。この方たちが病院に移って亡くなります。 以前に別の特養を持っておられる先生とお話する機会がありましたが、その先生の特養では90%ぐらいの方が施設で亡くなるということでした。当施設の場合は隣が病院ということもありまして、どちらでも対応できるということが、このように異なる結果になったと思われます。 介護保険についてですが、サブタイトルにありますように「これでよいのか」と言われますと、もっともっとよくしてほしいところはたくさんあります。日本慢性期医療協会が発行している『LTC(現:JMC)』という機関誌がありますが、1988年の『LTC』には吉岡充先生が、「介護療養型医療施設は、日本におけるナーシングホームにならなければいけない」と書いております。それから2006年の『LTC』には、猿原孝行先生が「病院というものは今後減らしていくべきであろう」というようなことを書いております。 介護保険の役割を、そのようなことも考えながら見ていきますと、このスライドに示したように「医療をサポートする介護」ではなくて、「医療がサポートする介護」によって、高齢者に安心・安楽な生活をしてもらえるのではないかと考えます。別の言い方をしますと、「多くの医療と少しの介護」ではなくて、「少しの医療と多くの介護」で、高齢者は幸せを得られるのではないかということです。医療を否定しているわけではありませんので、そこは誤解なさらないでいただきたいと思います。 介護保険の問題点は小林先生のお話にも多く上ってきましたが、わたしの立場からまとめたスライドです。まず、人材が少ないのに在宅介護などできるわけがないということです。北欧ではもうすでに在宅介護から施設介護のほうにまた揺り戻しがきているではありませんか。日本もこれから団塊の世代が高齢者となって増えてきますから、在宅などで子供に見てもらえるとは残念ながら思えません。高齢者という需要もそうですが、もちろんサービスという供給量も少ないです。今現在でも家族の負担が多いのですが、これからはもっともっと多くなるわけです。それと、「住みか」といわれている施設が少ないです。施設数も地域差がありますが、全体的に少ないのです。 介護報酬にしても、介護認定にかかわる部分が非常に煩雑で、例えば事務費とか、医師にかかわる認定審査会などに支払うお金があるのでしたら、もっと介護サービスのほうに回したらどうかと思うくらい、現場の悩みの種にもなっております。 医療のサポートは先程の特養のところで少し話しましたように、不十分な地域もあるようです。それから今後は、認知症やがんが増えるのは分かっていますから、この部分の、もちろん治療するためには医療も大事ですが、介護ということにかなりの重きが置かれてくるであろうということです。 医療がバックアップして介護を支えていく、そのようなことがこれからの老人医療にはもっともっと必要になろうかと思います。ご清聴ありがとうございました。 |
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プレゼンテーション(3) 「在宅医療、特にリハビリテーションの立場から」 齊藤正身 (霞ケ関南病院理事長) |
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それでは、最後のプレゼンテーションになりますが、わたしは「在宅医療、特にリハビリテーションの立場から」というテーマでお話をさせていただこうと思っています。 最初のスライドですが、実は、これは介護保険制度導入前の1997年に石川誠先生の書かれた文章を引用させていただいたものです。まず、石川先生のご紹介ですが、現在は初台リハビリテーション病院と船橋市立リハビリテーション病院の理事長であり、野球選手の長嶋茂雄さんの主治医でもあります。 その石川先生がまだ高知の近森病院のリハビリテーション科長でいらした時に書かれた論文が、つい先日出てまいりました。それを見ますと、リハビリテーションについて書かれていまして、「広義のリハビリテーションとは『再び人間らしく生きること』、すなわち『全人間的復権』もしくは『生活の再建および維持を支援する活動』」とあり、すべてを総称して、リハビリテーションというのだそうです。 「一方、狭義のリハビリテーションとは、『PT・OT・STが行う理学療法・作業療法・言語療法(現:言語聴覚療法)』の意味」と書いてありまして、それを提供することに関しては狭義のリハビリテーションというのだそうです。そしてこの狭義の意味である機能訓練、PT・OT・STが行う訓練そのものだけがリハビリテーションというような解釈をされ使われ方をしてしまっているが、果たしてそれでいいのだろうかというようなことを書かれていました。 実は今現在同じようなことが起こっています。「リハビリテーションとは」という、その言葉をどう私達はとらえるのか、リハビリテーションという概念といいますか、考え方、マインド、そのようなものを国民の方々に分かっていただくためには、全人的に、広義の部分を理解してもらうことが大事だと思います。しかし、例えば介護保険・医療保険といった制度の中でのリハビリテーションという場合には、どうしてもそれら専門職のかかわりの部分に報酬がつくという、その二つの解釈による使い方がなされています。 実はその中で、現場では非常に苦しんでいるといいましょうか、リハビリテーションという言葉の二つの解釈のどちらをとればよいかという難しさを、今改めて思う次第であります。石川先生の書かれましたのが1997年ですから、その当時にすでに危惧されていたことと、実は現在の現場の状況も大きくは変わっていない、課題は解決されていないのかもしれません。 医療制度改革に伴うリハビリテーション医療の流れを説明したスライドです。ここでいうリハビリテーションは医療になるわけですが、急性期、回復期、維持期という流れがあります。その急性期リハの役割は、急性期病床の早期離床であり、できるだけ早くベッドから立ち上がろう、あるいはできるだけ早くリハビリを始めようというもので、これからも力を入れていかなければいけないところです。 回復期リハ病棟に関しては、介護保険制度と同時に始まったもので、機能回復・ADL向上を目指しながら自宅復帰を前面に押し出してやっていこうというものです。 自宅に帰れた場合、維持期リハが始まります。「維持期」という言葉もいかがかということで、先日も「生活期」という言葉がよいのではないかというような話が今出てきているところであります。在宅で、介護が必要かどうかにかかわらず、リハビリテーションの「眼」といいましょうか、実施状況の確認は定期的に行っていく必要があるのではないかというものです。 それからご自宅に帰れなかったとしても、維持期・慢性期の病棟で入院・入所のまま、あるいは退院して施設で生活される中でも、その生活機能を維持・向上していくということが大事です。このような流れからも維持期リハは重要です。 ここでいうリハビリテーション医療という時は、急性期、回復期、維持期という言い方をしますが、リハビリテーションはこれ以外に、社会的リハビリテーションだとか、職業的リハビリテーションとか、あるいは地域リハビリテーション等、いろいろな分類の仕方があるものですから、そこのあたりの言葉遣いといいますか、リハビリテーションという広義、狭義の解釈をどのようにしたらよいか、本当に悩ましいところでもあるわけです。 平成18年度の同時改正と同時期に、急性期、回復期のリハビリは医療保険で提供されて、それ以降の維持期リハに関しては介護保険で提供されるということを厚生労働省が発表し、このスライドのように分けられました。これは、報酬改定の4月に発表されず、その年の12月に発表されました。遅れること8か月たってからの発表です。 なぜそうなったのかといいますと、リハビリテーションの日数制限の問題がこの時に出てきて、社会問題として注目され、44万人の署名が集まるほどで、このままではいかないぞという機運が高まり、どこかできちんと医療保険・介護保険の整理をしなくてはならなくなりました。 さらに、介護保険の中で提供されるリハビリテーションを、医療保険に負けないだけの充実したものにしようではないかという取り組みが、ここから3年かけて、いろいろなモデル事業等として行われることになったという背景があります。 このスライドは、その回復期以降の充実したリハビリテーション体制構築を目指してということで、平成21年度の報酬改定に向けて3年間かけて取り組んだものです。日本リハビリテーション病院・施設協会やリハビリに関連するような団体がみんなで協力して、ここに挙げられている7つの項目についてモデル事業を行ったり、提案をしたり、あるいは活動をしたりしてまいりました。 先ほど問題とされた、リハビリテーションの日数制限に関しては、短時間型通所リハというものを外来リハの受け皿として作ってみたらどうかとか、訪問リハのステーション、あるいはショートステイでリハビリテーションが提供できるようにしようではないかというようなことや、リハビリテーション・マネジメントなどいろいろな項目が並んでいますが、一番重要なのは7つ目の診療報酬と介護報酬の整合性が全く合っていないことです。 同じ専門職が医療保険でかかわって得られる報酬に比べ、介護保険で全く同じ時間かかわって得られる報酬は医療保険の数分の1に減ってしまいます。それでは、とても介護保険が適用されるリハビリに専門職を置けないという状況が今でも続いています。 7項目のうち黒い三角にしてあるのはまだ改善がなされていないという意味ですが、2番と4番に関しては今回も提案したのですが正式には認めてもらえませんでした。短期集中リハのレベル低下時に関しては、ショートステイを使えばよいではないかというようなお話もあるのですが、幾つかの項目に関しては、取り組みが功を奏したものもありますが、全体的に見ますとなかなかうまくいっていないというのが実感であります。 このような取り組みをしてきましたが、しかし、実際には今回の改正では、サービスの基本単位はほとんど変わらなくて、加算がつくか、つかないか、加算が取れるか、取れないかということに終始したわけです。そのため、先ほどの桑名先生のお話にも、介護保険制度の報酬改定が「どう変わったか」と書かれていましたが、わたしの印象ですが、実はあまり変わっていないといえます。 例えば短時間型通所リハですが、リハビリテーションの訓練だけを目的にして来られる方が非常に増えたとか、新規にリハビリを提供する事業所が増えたかといいますと、実はそうでもなくて、今までもリハビリをやっていたところがそのような方々も受け入れるようになったというのはありましたが、新規参入は本当に少ないです。 この理由は簡単で、来年の診療報酬改定を見てから判断しようという動きで、実際には介護報酬の加算が幾らか付いても、それになかなか取り組めないのです。また、わたしはその話を聞いてある意味うれしかったのですが、加算は取りたいが、その加算を取ることによって利用料金が変わり、利用者の負担が増えます。それならば、利用者の負担が増えるよりは、同じサービスを、今のままの点数で提供し続けたいという事業所が実際にありました。 ですから、やはりもう少し踏み込んだ見直しが必要です。今回は加算が増えただけでしたが、次回は介護保険制度改正もありますから、きっと大きな改定になると思います。よい方向にいくと信じたいのですが、実際はあまり大きな動きはないと今のところよんでいます。 今回の介護報酬改定が内容に乏しく、このような制度はやめたほうがいいとか、そのような話ではなくて、次は医療保険・介護保険の同時改定ですから、その時にできる限り、医療と介護が同じテーブルの上で議論されて、整合性を取る努力をしてくださればありがたいなと思うところです。 平成20年度に、地域包括ケア研究会というのが生まれました。この研究会は、先ほど小林先生のプレゼンテーションの一番初めに、「地域包括ケア」という言葉がありましたが、今そのような形を目指していこうというのが、これはおそらく国だけではなく、私達も、それから国民の人たちも、住み慣れた地域で包括的なサービスが受けられる体制というのを望んでいるのだと思います。 そのことについて、2025年を視野に高齢者ケアの体制がどうあるべきかを議論する場があります。その議論の場に去年呼ばれまして、プレゼンテーションをしました。幾つかお話をさせていただいたのですが、その時に制度に対する素朴な疑問や、個人的な提案をさせていただきましたのがこのスライドです。 一つめは、介護保険における介護の必要度についてです。次のスライドにイメージを表しましたが、要介護認定と、リハビリテーションの必要度というのは果たして同じなのか、介護度が重いとリハビリテーションがたくさん必要で、介護度が軽いとリハビリテーションはあまり必要ないのかというと、これは少し違うのではないかということです。 医療の必要度というのも、今は医療区分ぐらいしかそのような必要度を表すものはないかもしれませんが、実は医療の必要度も要介護度とは異なるものであるという議論になっているわけですから、リハビリの必要度と要介護度は果たして同じなのか、違うだろうというのが思うところであります。 しかし、実際にはリハビリテーションが介護保険でも提供されていますが、要介護度に応じた支給限度額があるわけです。その限度額の中でどうしても介護サービスにするか、リハビリのサービスにするか利用者に選択が迫られます。特に要介護度が軽めの方々になると、リハビリテーションが必要なことはケアマネジャーさんも分かっているのですが、やはり日々の介護のサービスを優先させてしまいます。「申し訳ないけれど、リハビリのサービスはちょっと控えておきましょう」と、介護のサービスを中心に組んでいます。 本当は、先ほどお話しました短期集中リハとか、退院・退所直後のリハビリが、加算として表向きは利用できるようになっているのですが、実際には介護のサービスが優先されるからそれでできないのです。同じ土俵、ステージの上で、利用者に介護を受けるか、リハビリを受けるかが天秤に掛けられています。これは本当に利用者にとっていいことなのかと、素朴な疑問として投げかけました。 それから、リハビリは介護負担軽減のためにもやっぱり必要なのです。介護を受けている方々にとって、これぐらいの介護が必要だという介護量がありますが、その時にリハビリテーションをうまく介入する、特にリハビリの専門職がかかわることによって、その介護の負担が少し軽減します。 リハビリを行うことで、介護サービスをあまり使わなくて済むようになったり、家族の、細かな例をいえば、立ち上がりの時に一部介助だったのが見守りですむようになったり、少しずつでもそのような効果があるわけです。でも、その有効性というのは本当に評価してもらえているのか、介護とリハビリというのは一緒に提供されていくものなのではないかというような主張をしたいと思い、このようなお話をしました。 それから、自宅復帰困難な方々に提供しているリハビリテーションの意義も、あまり理解されていないように思うというようなお話もさせていただきました。介護予防の概念は、今は軽度者の方だけに介護予防という言葉が使われていますが、重い方に対してもこれ以上介護を受けないようにするという取り組みは、広い意味での介護予防といってもよいのではないかともお話しました。 リハビリテーションというのは、疾患別とか、制限を持って提供するようなものではなくて、一番初めの石川先生の言葉にもありましたように、全人的・包括的に提供されるべきものがリハビリテーションだというように思うところであります。 そのほかに、地域リハの広域支援センターという制度がありますが、これは一般の方にほとんど知られていません。地域リハビリテーション広域支援センターに補助金がついていましたが、今回の仕分け作業がなされる前に、補助金が打ち切られてしまった制度でしたが、作るだけ作って、あとはお任せとなってしまったものでしたが、せっかく作った、それこそ地域での連携のスタイルというのが、今頓挫している地域がすごく多いことも知っていただきたく思います。 そのあとで地域包括支援センターは生まれたものですが、これも今度の仕分けで、補助金がどうなるのか、ちょっと不安になるところです。せっかくいろいろできたものが、有効活用されていないのではないか、あるいは機能強化する必要を感じます。なぜなら地域包括支援センターにはリハビリの専門職がおりません。 しかし、予防給付の段階で、給付を希望する人たちとかかわりを持っていく中で、この人にはどのような筋トレが必要なのか、口腔ケアは必要なのか、あるいはその人の生活環境を見たりしていく時に、やはりリハビリの「眼」、専門職の定期的なチェックというのが必要なのではないかと思います。 このようにいくつものセンターができますが、センターといっても6畳一間の小規模なもので、単体での機能に限界があったりします。そのようないくつものセンター同士がうまくドッキングしたり、強い連携が結ばれたりしていく必要があるのではないかとも主張しました。 回復期リハビリテーション病棟というのは、恐らく世界に冠たる病棟といえまして、充実したスタッフ、チームの構成員がバラエティーにとんでいて、これ以上に一人一人のスタッフが能力を発揮できる場はないというようにわたしは思っています。回復期リハ病棟にはせっかくそれだけの体制があるのですから、現在手薄な在宅支援の体制を回復期リハ病棟が持つということを、制度の中に入れてみたらどうかということも提案をしました。 それと、在宅療養支援診療所ですが、これは24時間体制の、どちらかというとターミナルの方々を看ていく施設でありますが、リハビリ機能を重視してみてもよいのではないかと思います。リハビリテーションの必要性、適応等は、一般の方は分かりにくいだけでなく、どのような医者でも簡単に決められるのかというと、実はそれほど簡単ではありません。ある程度の専門知識を持った医師と、それからリハビリの専門職がチームでかかわって初めてリハビリの必要性、適応が見えてきます。そのようなリハビリ機能を重視した在宅療養支援診療所を拠点にしてみたらどうだろうかというようなことを提案しました。 そのような提案をして、この一部は今年5月22日に出た地域包括ケア研究会の報告書で取り上げていただきました。このことに関して今、21年度の研究会が議論をしてくださっているという状況であります。 このスライドのイメージのように、実際に、要介護認定でリハビリの必要性は決まりません。これは前々からずっと言われていることですが、なかなか難しいです。介護保険制度というのはリハビリ前置主義が前提で始まっています。介護必要度というのは、要介護認定、介護の手間で決まりますが、リハビリの必要性というのは、リハビリテーションの専門職のかかわる時間で、介護度に準じているわけではないので、これはなかなかこの枠の中に入れて要介護度5だからこれぐらいのリハビリ量と決めるのは違うと思います。ですから、介護とリハビリは別々に考えていくものではないかと常日ごろ感じています。 このスライドが、先ほど言った地域包括ケア研究会の、2009年5月22日に出た報告書のリハビリテーションサービスについてのまとめです。先ほどわたしがプレゼンテーションをさせてもらった内容から、取り上げていただいた部分です。 この中で、幾つか出ていますが、一番下の「医療保険・介護保険といった保険別の枠組みでリハビリを提供している」とあります。ですから、医療保険でもリハビリを提供、介護保険でもリハビリを提供となっていますが、「利用者の状況や状態に応じて、両者の連携を図っていくべきではないか」という文書が、報告書の中に載りました。これは、言い方を換えれば、今リハビリテーションが必要だという時に、適時、的確にリハビリテーションが提供できるような体制をとっていくべきではないかということです。それが介護サービスとうまく連携をしていくことにもつながり、大事だろうと思います。 これ以外にも、例えばリハビリテーション専門職が全部かかわらなければいけないのかというような議論もあります。例えばリハビリテーションの専門職は、利用者が、ある程度維持期、慢性期の状況になって落ち着いてくれば、経過の評価という形でくさびのように入っていきながら、この人にはこのような運動をしていったらよいのではないかというような提案をして、それをケアマネ、介護職の人たちが受けて、それを代行して提供していくというような、そのようなやり方もリハビリテーションにならないのかという議論もあります。これは海外では当たり前のことで、日本だけが訓練=リハビリテーションになっているところがあり、リハの専門職がどうかかわるべきかということをもう一度、PT・OT・STの協会の方に、もっと声を大にして言っていただきたいと感じています。 このスライドは、11月5日にあった地域包括ケアシステムに関する検討部会のまとめです。さっきの地域包括ケア研究会が、一歩進んだ形になって新たな検討部会が生まれ、そこでプレゼンテーションをしてまいりました。わたしがその時に与えられたテーマは「QOL向上のための予防・リハビリテーションの推進」ということで、要支援者への予防給付や介護予防がどうあるべきなのかということと、重度化を予防したり、状態改善の取り組みはどのようにしたらよいのかというサービス体系の見直しと、それから、包括的にリハビリテーションが在宅で提供できる体制というのはどうあるべきなのかということについて、プレゼンテーションし意見を求められました。 その中で、要支援の方への予防給付、生活援助を含むその在り方に対して、要介護度があまりにも細分化されていて、現場が非常に悩んでいることをお伝えしました。 要支援1、要支援2に該当した方々に対して提供されるのは予防給付なのですが、この要支援2と介護給付を受けられる要介護1の境界があいまいです。これは要介護認定でどちらかに振り分けられるシステムになっているわけですが、この2つの状態像というのは、見た目ではあまり分かりません。利用者はもちろんですが、サービス提供者も判別がきちんとできていないのが実際ですが、予防給付と、介護給付では受けられるサービスが異なります。 例えば通所リハに通っている方に要支援2の方と要介護1の方がいるとします。どう見ても自分と同じような人が要介護1で、自分は要支援2と認定されると、両者では提供されるサービスの内容が異なり不満であるということが、そこら中で当たり前のように起こっているのです。 このことは、リハビリテーションのプログラムについても実はあてはまります。要支援2、要介護1と異なった認定を受けることで、プログラムは別に組むことになっています。しかし、状態像にはそれほど差がありませんので実際のプログラムの内容はそれほど変わりがありません。ですから、要支援2の人に対しては重いとされる要介護1の方と同じサービスを厚く受けているというのが現実であるような気もします。果たして要支援2と要介護1を分ける必要があるのかという根本に問題があると思いますがいかがでしょうか。 実際にはこの両者の違いを、自主訓練や、グループ訓練、その提供場所をちょっと変えてみたり、時間帯をずらしてみたりし変化を持たせています。ケアマネジャーも恐らく同じような悩みがあるのではないかと思います。実際、要支援2のケアマネジャーは要介護支援、地域包括支援センターの側ですので、ちょっと重くなって要介護1になると、ケアマネジャーが変わってしまいます。逆もまた起こります。非常に分かりにくいといいますか、細分化したがために、不自由ながら制度に従わざるを得ない状況にあるというようにわたしは思っています。 要支援者に対するリハビリテーションが、すべてグループや自主的なものでよいわけではなくて、特に個別評価というのは、要支援2であろうと、要介護1であろうと、評価は必要です。今はどのような状態で、どのようなリハビリが必要か、そのことに関しては変えようがありません。例えば要支援1の対象者の多くは、認定時に非該当と出た方ですが、特定高齢者と言われた方々と非常に見分けがつきにくいのが現状です。 しかし、具体的なアプローチとしては、評価とか、日常生活上のアドバイスが、どうしても要支援1の方が中心になってきます。特定高齢者とどこが違うのかということを考えるとそれほど違いはないと思うのですが。 要介護認定で要介護度の細分化がすすめられましたが、実際にはそれほどの分類は必要がなく、財政的に支給限度額を低く抑えるために分けているようにしか思われません。もっと実態に即した要介護認定というのをもう一回今考えてもよいのではないのでしょうか。今のやり方を前提に考えるのではなくて、先ほど要介護認定のためにかかる事務費の高騰が目立つというようなお話もありましたが、立ち返って考える必要があると思います。 個人的には3段階ぐらいで十分ではないかと考えています。通所リハに関しますとすでにサービスの提供は3段階ぐらいになっています。要介護度4、5の人、それから2、3の方、要支援2、要介護1の方とした、3段階ぐらいのプログラムで十分だろうと思っております。 このスライドは要支援者に対するリハビリテーションの在り方についてです。要支援の方は、個別のリハビリテーションはあまり必要がなくて、グループだけでよく、評価をすればいいというように思われがちですが、実際、要支援の方がちょっと転倒したり、感染症になって寝たきりに何日間かなったりというだけでも、リハビリテーションの必要性というのは大きく変わってきます。 しかし、現状では、レベルが急激に落ちたときにすぐリハビリテーションに入るというのは、なかなか難しい状況です。急性期、回復期という脳卒中のような流れではなく、そのような急に廃用症候群になるようなケースというのもけっこうあるわけです。 このような時は、訪問看護でもありますが、特別指示書のようなものが出せるような体制を提案させていただいたり、地域包括支援センターにPT・OT・STを配置すれば、もっとよくなるのではないかということもお話をしました。 ただ、このレベルが低下してきた時というのは、要支援者に限らず、要介護の人全てにいえることですが、やはりすぐにサービスを受け状態を改善できる体制によって、入院・入所に至らないで済むようなかかわりが求められるのではないかと思っています。 それから要介護者に対する重度化予防、状態改善の取り組みでは、先ほど言ったレベル低下時の方が退院、退所直後以上に、短期集中リハが必要であるという話や、リハサービスを包括的に提供するには、在宅リハセンターのようなものが必要なのではないかという提案もしました。それから、回復期の話もしました。リハの「眼」の話もしてきましたが、これは居宅療養管理指導という形でリハの専門職よる加算が取れないのかなどということを、提案させていただきました。 委員の方々が「それはよいかもしれない」と言ってくださったのは、在宅リハセンターです。包括的にサービスを提供する在宅リハセンターがよいというお話をしてきましたが、維持期リハに続いて、どのような在宅リハのチームを作っていけばよいのかですが、地域性を重視して柔軟にサービスが提供できるような体制を作るべきだということや、それからわたしどもの病院でやっていることですが、療養病床を削減して、そこを在宅リハセンターに転換をするというのも、これからの一つの方法ではないかという提案もしております。 さて、維持期リハの医療サービスの課題についてのスライドですが、これは石川誠先生が、一番最近書かれた文章のまとめであります。今、石川先生はどう考えていらっしゃるのかというと、リハ機能が充実した24時間体制の地域ケア拠点を作ろう、在宅療養支援診療所などを在宅リハセンターとしてうまく使えないかということ、それから訪問リハステーションの話です。通所リハ=通所介護+通院リハでよいのではないかということも、石川先生は、最近言われるようになってきました。通所リハはもういらない、通院リハ+通所介護でよいのではないかということです。 わたしは全国老人デイ・ケア連絡協議会の会長をしているので、立場的には「いや、そんなことないです」という立場ですが、しかし、心のどこかに、それでもよいといいますか、そのほうが利用者は分かりやすいと思っています。今提供している事業所や団体の立場よりも、利用者にとってどちらがよいのかということを、しっかり聞いていく必要があるように思います。 それから、石川先生は介護保険のリハサービスを医療保険対応に変更、もしくは出来高払いに変更してみてはどうかというようなことも言われております。これに関しても、地域包括ケア検討会でわたしも同じ発言をさせていただきました。やはり、リハビリテーションは専門職よるサービスですので、そこの部分に関しては、医療保険と介護保険で受けられるサービスが変わるというようなことは、利用者にもとても分かりにくいし、提供側も非常に困惑しています。そのあたりの整合性を取る必要があるのではないかということで、支給限度額でリハサービスが受けられないというようなことがあってはならないと思います。 このスライドは、介護予防・リハビリテーションの推進について述べてきたものです。介護予防に関しては、地域包括支援センターをうまく使ってみたらどうか、それから「維持期」という言葉に関しては、生活を支えるためのリハビリという意味では、「生活期」というような呼び名に変えてもよいのではないかと思っています。それからリハビリテーションの提供は同一の保険制度内で提供されるべきで、特に急性期、回復期、維持期という一連の流れができているわけですから、利用者にとっても理解しやすいのではないかという発言をしました。 わたしどもの法人でも、小林先生のスライドにもありましたように、どんどん要支援や要介護1の軽度な利用者が増えてきています。その軽い方々が、介護予防か介護保険対象かどうかという議論も、もう一度するべきだろうと思います。 もう一つ、要介護度の重い方々に回復を期待せずリハをやらないで、そのままただ見ていくのではなくて、少しでも軽くなるような努力と、人間の尊厳を守るような努力、かかわりをするべきです。それを評価してもらうべきではないかということも主張をしています。 通所リハに通っている方の8割はいすに座ることができない方々です。そのような方々が、座位がとれるようにする通所サービス、あるいはリハビリテーションというのがあってもよいのではないかということです。 わたしどもでは療養病床をダウンサイジングして、重い方々専門の通所リハを2006年から始めました。このグラフにお示ししたように、本当に重い方々ばかりですから1対1対応はきついです。重い方々がどんどん退院して、ご自宅に帰っている状態の中で何が起きているのかといいますと、自分一人では施設に通えませんので、訪問系のサービスしか受けられません。実際には閉じこもりが起きているわけです。家族も介護にかかりきりになり、家から出ることができません。重い方々は家で見ろ、というだけでは状況は好転しません。それでは一体この人たちはどうしたらよいのでしょうか。 やはりこのような方々が社会に触れるきっかけを作ったり、そのためのリハビリテーションサービスが提供できる場所を、これからどんどん作っていくことが、わたしは大事だと思います。このようなものに対してもっと評価といいますか、理解していただきたいと思います。 当法人では、ADLのレベルが低下しないように日帰りショートステイを始めました。レベルが低下した時にはメンテナンスリハ入院などということも行っていますが、維持期でリハの専門職が集中的にかかわる、あるいはリハの成果を評価するのにどの様にかかわれるか、もう一度整理をし直す必要があると思っております。 それ以外にも、わたしどもの法人では利用者が気軽に来られるように、マージャンをやるような場所を作ったりして、病院が地域の一つの社会の場となるような、そのような取り組みを現在進めているところです。 最後のスライドになりましたが、介護保険制度についてです。まず、要介護認定についてですが、認定の複雑化によって、個々の課題はよくなったと思われがちですが、結果的には、現場ではそのようにはとらえていません。特に利用者にとっては利用しづらいもので、このことは考え直したほうがよいと思います。状態に応じて決められるリハの必要度に関しては、国民が理解できるような方向にもう一度考え直すべきだと思います。 わたし個人の意見ですけれども、介護保険という公的な保険の中で、要支援者にサービスを提供するというよりは、地方自治体は地域支援事業とし計画し、あるいは医療機関や施設等は「場」を提供する、それで、インフォーマルなサービスが活用できるような取り組みも必要なのではないでしょうか。 医療保険と介護保険の中身の問題ですが、介護保険が始まる時には、社会的入院等により、医療保険で提供されている介護の存在が問題になりました。それをやめようということで公的介護保険制度になりましたが、今何が起こっているのかといいますと、介護保険の中で医療が提供されているのではないかと思います。 やはり財源の捻出を優先してすすめてきたのが、このような結果を招いたのかと思いますが、診療、看護、リハビリというのは、やはり医療保険なのではないかということです。先ほど医療と介護の関係を桑名先生がお話しされていましたが、介護が中心で医療がそれをサポートするという形ならば、財源が不足するという問題も起こらないのではないかと考えるところです。 わたしは常日ごろ、医療保険と介護保険は2本のレールというように思っています。つなぐというよりはやはり一緒に協働という形で動いていくのが、医療保険と介護保険の在るべき姿ではないかということです。叫ばれ続けて達成できない連携ではなくて、互いの専門性を活かし合う協働への意識改革が必要だというのが持論です。 今日お話し致しました提案、提言がどこまで実現に向けて検討されていくかは少し難しいところですが、介護保険をどうするのか、もう一回このような考え方で立ち返ってみることを提唱していきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。 |
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