老人医療NEWS第130号
もう少し続けさせてもらいます
老人の専門医療を考える会 会長
霞ヶ関南病院 理事長 齊藤正身

昨年末に旧騎西高校(埼玉県加須市)にあった双葉町の避難所が閉鎖された。二〇一一年三月十一日、辛い忘れられない出来事のはじまりになったあの日から二年九ヶ月、この避難所の閉鎖は支援活動の一区切りとして感慨深いものがある。

震災から十日前後、さいたまスーパーアリーナでの支援活動からはじまり、埼玉県医師会・理学療法士会・作業療法士会・言語聴覚士会による旧騎西高校へのリハビリテーション支援活動、双葉町からの要請によりリステル猪苗代への支援はリハビリテーション関連団体の一員として活動、そして現在は福島県内の双葉町民の仮設住宅への支援を法人として継続している。震災後、私の法人では「社会貢献」を事業理念に加え、スタッフの支援活動を保証する体制を整えた。支援の基本は押付けがましい活動や必要以上のパフォーマンスは慎むことと決め、求めに応じた支援内容(多くはストレッチや体操、体力測定、アクティビティなど)を提供することに徹してきた。そのため、マスメディアに取り上げられることも少なく、外部への報告や発表も制限してきた。

先日ある会合の席で「まだやってるの。選挙にでも出るの」と心ないコメントを受けた。めちゃくちゃムカついたが、「もう少し続けさせてもらいます」と大人?の対応でその場は済ませた。この三年近くの間、多くのことを学び経験することができたが、平常時にはあり得ないような「偉い人たちの言動」にはいつも振り回され心が痛む日々だった。「人の振り見て我が振り直せ」という感じだが、でも本当に勉強になったのは、支援活動を続けているスタッフたちの言動だった。

震災から半年ほど経ったころ、次のように語ってくれたスタッフがいる。「制度やルールの中で生活したりサービスを提供することが当たり前のようになっている現代社会ですが、その枠が決して全てではないことを実感し、求める人が本当に必要としていることを必死に考え、純粋な気持ちで提供することこそが私たちのアイデンティティであることを確認できた。」と目を真っ赤にして伝えてくれた。「専門職としてお付き合いするだけでは応えられない…」「被災者の方々には申し訳ないけど、支援活動によって私たちは成長した気がする」「援助の目標は、自助・互助へのサポート…」「笑顔をもっと沢山見たい!」など、仮設住宅でのボランティア活動の晩に居酒屋や宿泊先の仮設住宅で熱く語り合うスタッフたちの姿は本当に眩しく頼もしく感じられた。医療・介護に携わる私たちにとって福祉の本来あるべき姿を再確認でき、制度を超えて支え合うことの大切さを実感できる支援活動に携われていることを感謝したい。だから「もう少し続けさせてもらいます」

因みに当会の活動も、「求める人が本当に必要としていることを必死に考え、純粋な気持ちで提供することこそが私たちのアイデンティティである」と信じ、「もう少し続けさせてもらいます」

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新しいことへのチャレンジ
国分中央病院 理事長 藤ア剛斎

昨年は、世間ではアベノミクス、二〇二〇年東京オリンピックだと湧いた一年でありましたが、なかなか鹿児島まではその効果は感じられず、それよりも桜島の火山灰や中国からのPM二・五の方が先に届くといった状況です。巳年の年男であった平成二十五年もあっという間に終わり新たな年が始まりました。

昨年を振り返ると、私には「チャレンジの一年」であったと思います。理想と現実を往来し、様々な荒波に揉まれながらも少しずつではありますが目的地へ向けて舵取りをしているところです。そこにまた新たな目的地が登場しました。介護事業への参入です。老人医療に携わる上で、どうしても病院だけでは解決できないことは身に染みて感じていました。

国は二〇二五年に向けて地域包括ケアシステムの構築を推進しています。連携という枠組みで他事業所との繋がりも大切です。事実、霧島市内の複数の介護施設の協力病院として登録させていただいています。しかし、施設によって運営方針や配置スタッフが違うこともあり、もう少 し早く病院に連れてきてもらえたら、という歯がゆい経験も少なからずありました。

さらに驚くことに当院が位置する国分中央地区は介護施設がほとんどありません。介護サービスを受けるために車で二十分ほどの隣町まで受けに行くという声も聞きます。そこで当院の経営理念である「霧島市民に必要とされる病院創り」の一環として当院隣に複合型のサービス付き 高齢者向け住宅を建設し、昨年の十月一日にオープンいたしました。

老後は田舎で静かに余生を過ごすのもいいかもしれませんが、これから二〇二五年に向けて団塊世代が後期高齢者になっていく時期ですので多種多様なニーズが生まれてきます。その中で利便性の追求も視野に入れていかなければ取り残されていくかもしれません。そのため、本来サービス付き高齢者向け住宅のサービスの部分は安否確認や生活相談、バリアフリー等の設備だけでいいのですが、病院が運営する以上、人工呼吸器や人工透析・在宅酸素などの医療処置の必要な方や胃ろうなどの注入食の方までお引き受けすると決めました。看護師も二十四時間常駐し、毎日の健康管理と異常の早期発見を心掛けています。デイケアも建物内に移転させてパワーリハや機械浴も導入し個別リハビリも充実しているところです。食事にもこだわり、冷凍・レトルト食品を一切使わず、農家と直接契約し、旬の食材をふんだんに使用した料理を提供しております。そのかいあってか、オープン当初から順調に入居者も増えてきております。目指すところは上質な療養病床といったところでしょうか。

さらにもう一つ大きなプロジェクトも同時進行しております。病院から徒歩二〜三分のところに地域密着型の特別養護老人ホーム建設の認可もいただきました。

その他にも訪問リハビリテーションも開始し、在宅系のサービスも順調に充実させております。これから霧島市の地域包括ケアシステムをリードする存在にならなければならないと自覚しております。

いずれも母体となる病院がしっかりしなければならないことは明白です。四月の診療報酬改定も差し迫っております。今できることを確実に行うことで新しいこともチャレンジできるのだと考え、邁進していきたいと思います。今年も昨年以上に慌ただしい一年になりそうです。

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患者さまからのありがとう
鶴巻温泉病院 院長 鈴木龍太

鶴巻温泉病院は神奈川県秦野市の南に位置し、回復期リハビリテーション病棟、医療療養病棟、介護療養病棟、障害者施設等病棟、特殊疾患病棟、緩和ケア病棟を持つ、五九一床の多機能型のケアミックス病院です。

当院では退院された患者さま・ご家族にアンケートを送り、入院中の感想を頂いています。また病院のご意見箱に、ご意見、ご不満も頂いています。それらを集めて、毎年「ありがとう」という小冊子を発行しており、今年で第十六号を迎えます。

患者さまご自身からのものもありますが、多くはご家族からのものが多く、ご家族が高齢のご両親や、配偶者を入院させたとき、どんな気持ちで入院させ、どんなことに喜びを感じてくださるのかがわかります。

「ありがとう」からいくつか引用いたします。【貴病院のスタッフすべての方々が、初めて息子に接していただいた際に息子に挨拶をしてくれました。自分の意思で語れず動けない息子に「こんにちは」、「よろしく」と声をかけてくれた貴病院のスタッフの皆様方に妻と私は感動し、「やっと」息子が安心できる環境が訪れたという思いを強く持ったことを思い出します。ありがとうございました。】【入院中のスタッフの皆々様には大変お世話になり、ありがとうございました。リハビリで教えていただいたことは、回復するための患者の為のより良いアドバイスであったと帰宅して感じることがありました。私の人生の中の辛い苦しい一ページではありますが、入院中のスタッフの方々とのふれあいの時間は良い思い出として心に残っています。まだまだ時間がかかると思いますが、元気になって皆に会いに行きますので、元気でお仕事がんばってください。ありがとうございました。】【転院して、今一番助かっているのは、たんの除去と簡単なベッド上でのリハビリを教えていただけたことです。正直、教えていただいている時は結構細かく注意され、看護師さんからは、なかなかOKが出ないまま転院になりました。しかし、今しっかり「清潔」を念頭に、自信をもってたん取りをしています。】

職員の毎日のちょっとした動作や挨拶が患者さま・ご家族にどんなに励ましになるかが伝わってきます。【誰でもいつかは終わりが来ますが、貴病院のように、命が終わったあとも、あれほどの心のこもった送別をして下さったこと、母を大事にしていただいたこと、感激致しました。あの白い布の通路を母と一緒に通っている時、母が神聖なものになったんだなあと感じていました。母の最期の顔は美しかったです。本当にありがとうございました。】【転院前の病院では、母の状態では入浴もできず、口腔ケア等色々と限界があり、私共も日々無力感と母への申し訳なさを感じていました。鶴巻温泉病院さんに転院後は、常に清潔で、定期的な入浴やマッサージ、自宅にいるかのような部屋の雰囲気に、母の表情が別人のように穏やかになったのを感じました。スタッフの方々全てが明るく、細やかな心配りをしていただけたために、母は最期まで穏やかに人間らしく過ごせたと思っております。最後に飼い猫にも会わせることができ、皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

こちらの病院にお世話になれたことで、私共も最後に少しは親孝行ができたかなと気持ちを切り替えることができました。本当にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。】

ご家族が亡くなった病院に対して「ありがとう」といってくださる人は少ないと思います。鶴巻温泉病院が、ご家族を見送る場所としてふさわしい環境だったと思ってくださったことは、大変ありがたいことだと思いますし、これからもそう思われる病院であり続けたいと思っています。

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医療・介護改正 一括法案のゆくえ
[アンテナ]

今年一月二十四日に通常国会が開催された。厚生労働省は、十一の法案を提出予定している。この中で、医療法や介護保険法にとどまらず保健師助産師看護師法の改正のほか、医療計画と介護保険支援計画の整合性を確保して、新しい基金を創設する取り組みまでもカバーする大改正を進めるとしている。この法案は、仮称「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関連法案の一部改正案」と名付けられており、医療・介護関連の一括改正法案となる予定であると説明されている。その内容は、必ずしも明確になっていない部分もあるが、主な目的が地域包括ケアシステムの構築に焦点があたっていることは確かだ。

四月に予定されている診療報酬改定後の都道府県による地域医療ビジョンの策定や第六次介護保険支援事業計画策定は、今後の医療・介護のゆくえを左右する重要事項であり、病床機能の報告制度導入の実効性確保という観点からも、十分な議論が必要である。

もちろん、来年の介護報酬改定に向けての在宅医療と介護の連携や地域支援事業の充実、さらに認知症施策の充実などについても、この一括法案で規定されることになる。

願わくは拙速主義に囚われることなく、国民にわかりやすい討論を国会で進めて欲しいものである。

一昨年の安倍政権発足後、医療や介護について、国の経済成長戦略に組み入れる議論が先行し、具体的に何をどのようにするのかといった明確なビジョンが伝わってこない。地域包括ケアシステムの確立について、その必要性については十分理解できるが、その推進についての阻害要因を確実に除去しようとする議論は、むしろ低調であると思う。

医政局は医療法を、保険局は医療保険各法を、老健局は介護保険法ということになっているが、このようなタテ割り行政では、地域包括ケアの推進に支障が生じるであろうことは明白である。であるからこそ一括改正法が必要であるという解説は、なんとなくわかりやすい。ただ、改正の内容が多岐にわたり、それぞれが関連するため、どこかで不調な議論となると、全てが成り立たなくなるという危惧もある。

逆の見方をすれば、国民生活に重要な影響を与える医療や介護の広範な政策課題を、ひとつの局で対応することに明らかに限界があり、厚生労働省内の総合調整機能が発揮できなければ、一括法案のゆくえは暗たんたるものになるということである。

一昔前「厚労省には、局あって省なし」という自嘲的発言を聞いたことがあるが、もはやそのような時代ではない。省としての業務範囲は、飛躍的に拡大し、そのいずれもが国民生活に重要な影響を与えるという現状について、厚労省職員各位が十分認識していることを祈るしかない。

平成十八年に公益法人制度改革が進み、医療法人の仲間として社会医療法人制度が誕生し、昨年からは社会・援護局内で「社会福祉法人の在り方検討会」が議論を進めている。国全体の制度の在り方というか、この国の新しいカタチの明確化が求められているのであろう。この意見では、ひとつの省だけで解決できない医療や介護政策という現状が浮き彫りになっているのである。

それゆえ、厚労省には、省を超えた総合調整能力も強く求められていると考えるのは、考え過ぎではなかろう。少なくとも、厚労省内の総合調整が順当に進められるか否かが一括法案の成否を決定すると考えられる。ただし、この法案が成立できないという事態になれば、その先は真暗闇となる。とても心配だし、なんとか医療や介護のために実り多い方向に、関係者各位の一層の努力と協力を強く求める活動を続けたい。

* へんしゅう後記*オリンピックに沸いている日本であるが、二〇二五年の超高齢社会のピークが目前に迫る東京オリンピックの時には高齢者や障害者にやさしい街づくりのモデルを世界に見てもらえるようにしたいものだ。

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