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老人医療NEWS第99号

老人医療は国の責任

平成十八年六月十四日、医療制度改革関連法が成立したのは、かなり以前のように思う。後期高齢者医療制度も、医療費適正化計画も、そしていわゆるメタボ検診もすべてが盛り込まれていたのである。

しかし、二年半前以前、すくなくとも平成十七年十二月一日に政府、与党社会保障改革協議会による「医療制度改革大綱」が発表され、医療費適正化の総合的な推進、新たな高齢者医療制度の創設、保険者の再編・統合等を進めることが実質的に決定されてからの約三年間、政府は、国会は、そして厚労省は何をし、何をしなかったのだろう。

「改革大綱」に対して、大きな反対はなかったし、何となく社会保障の伸びをどうにかしなければならないことも、医療費は相変わらず問題視されていることも理解できた。医療費の伸びを毎年二二〇〇億円どうにかしろと言われても、その金額がどのように医療に影響するかについて、十分理解できなかったとも言える。まさか医療を崩壊させるようなことはないだろうと思わざるをえなかった。

問題は、なぜ平成十八年六月の医療制度改革関連法が、十分に注目されずに、国会を通過したかといったことである。小泉首相がいた、衆参両院で与党が圧倒的に強かった。特に郵政民営化選挙は与党にフリーハンドを与えていた。それを可能としたのは選挙民の我々でもある。

当時の新聞や資料を引き出して確認してみると、あの時、我々は療養病床廃止の問題で右往左往していた。国会議員の先生も「どうすればいいのか」「廃止に反対するから」といった、言葉をかけてくれていた。しかし、改革関連法案は、政治家の反対があっても既定路線として行政によって強力に推進されていった。

我々が療養病床にあれだけ反対している時に、実は他の改革関連法案の中身は、あまり点検されず、国会で審議もされず、それでも成立してしまったのである。あとの祭りなのかもしれないが、療養病床問題に多くの人々が関心を持ち、そのことで賛否両論の活動が展開されている最中、改革法案の中身はまったく「議論」されなかったといってもよい状態であった。

もっとはっきりいえば、療養病床問題が、煙幕となり、その他の制度改革の全貌が国民の目には見えない状態の中で、改革関連法案は国会を通過したのである。このことは、国民にとっても、国のあり方にとっても不幸なことであったと思う。

平成二〇年四月一日実施の後期高齢者制度の大混乱の原因は、まさにこの点にある。老人保健法を「高齢者の医療を確保する法律」に変更し、高齢者医療の責任を地方自治体による「自治事務」においやり、あたかも国の責任を放棄したかのような仕組みを創り、それが「国から地方へ」という政治スローガンの具体化であると説明する。しかし、一方で、国民健康保険財政で長年苦しめられてきた市町村は「老人医療はかんべんしてくれ」といい、都道府県は「我々は責任を持てない」と明言してしまったわけである。

この三年間を振り返ってみれば、政治も経済も、社会も医療も何も改善されず、バタバタと悪い方向に時間が過ぎたように思えてならない。小泉元首相から三人の首相がコロコロ変わり、誰が責任者なのかさえわからないキリモミ状態になってしまっているのである。

我々が、老人専門医療の現場から、改めて強く主張したいのは「老人医療の最終責任は国にある」というきわめて単純なことである。企業や組織あるいは病院や医療機関が責任を放棄してしまえば、誰が社会をそして老人医療を支えるのか、決してどうでもいいことではないぞ。 (20/11)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE