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老人医療NEWS第98号

社会保障国民会議はどこへ行くのか

社会保障国民会議(座長=吉川洋東大教授)は、今年六月一九日に福田首相(当時)に中間報告書を提出した。「選択と集中」の考え方に基づいて効率化すべきものは思い切って効率化し、地方で資源を集中投入すべきものには思い切った投入を行うことが必要というのが「基本認識」である。

同会議には、所得確保・保障(雇用・年金)分科会、サービス保障(医療・介護・福祉)分科会、持続可能な社会の構築(少子化・仕事と生活の調和)分科会がある。

この三分科会のひとつであるサービス保障分科会の第七回(九月九日)の資料で「社会保障国民会議における検討に資するために行う医療・介護費用のシュミレーションの前提について」という資料が配付された。

取るにたらないシュミレーションだというのは簡単だが、医療や介護をどうするべきかという「本音」が見え隠れして興味深い。いろいろな前提や考え方を説明してあるので是非実物を精読して欲しいが、一応「大胆な仮説において、シュミレーションしたものである」というのでその「大胆さ」を吟味しておくことが必要だと思う。

今後の医療・介護サービス提供体制については、現状投影ケースAと選択と集中等による改革を図ることを想定したB(改革ケース)を示している。このBケースは、さらに三つに見分けられて示されている。

まず、Bコースの基本的考え方は急性期医療については、医師・看護師の配置引上げや医師機能の一部をコメディカルに移管することが前提とされている。また、亜急性期・回復期については、リハビリ等の機能強化における急性期からの移行促進、地域ネットワークや連携パスによる在院日数短縮化、コメディカルの配置引き上げが示されている。

長期療養(医療療養)については、「現状より医療必要度の高いものを中心に入院させ、介護施設等との役割分担推進、介護施設や居住系施設については、「一般病床の機能分化や介護・居住系施設の量的充実を前提に、人員配置は現状維持(平均要介護度は上昇)」と書かれている。

さらに、在宅医療・在宅看護に関しては「たとえば末期がん患者に対する二十四時間ケア体制の構築、居住系施設に対する往診体制の強化を織り込むなど、提供体制改革による在宅利用者の状態像の変化を踏まえた地域医療体制の強化を織り込んで単位を設定」とある。

その結果示されていたのが、ケースB一からケースB三の三案で、医療療養二十三万人日前後、介護施設一四九万人日程度というのは同一で、B一とB二の差は、主に急性期と亜急性期・回復期の人数の差のみである。ケースB三は、高度急性期一八万人日、一般急性期三十四万人日、亜急性期・回復期三十六万人日、医療療養二十三万人日ということになっている。またBケースは全てで病院の外来を専門化する方向で、病院の一般外来需要は診療所で対応するという考えである。

なお、これらのケースで医療・介護費用の推計もなされているが、いずれもあらい推計で、参照にできるようなものではない。

病院の一般外来は診療所機能として、病院は専門外来と救急(説明はないが)のみとする。急性期病床に関しては五〇万人日程度とし、特に、高度急性期は一八万人日として、その残りを一般、また三十六万人日を亜急性期と回復期にふりわけ、医療療養は二十三万人日、残りは介護施設、居住系や在宅サービスで対応するという考え方がはっきりと示されているのである。問題は、二十三万人日の医療療養以外は介護施設化することが前提になっていることだが、実現性はあるのだろうか。 (20/9)
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