現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第99号

維持期リハビリテーションのイメージ

霞ヶ関南病院 理事長 齊藤正身

ある時、リハビリテーション(以後リハビリと略す)の高名な専門医に「流れ」の重要性を説かれた。その時に比喩された「川の流れのように川上から川下へ」という表現が、ずっと頭の中から離れない。素直に受け止めればその通りと納得してしまうことだが、私はあまり良いイメージに受け止められなかった。

急性期から回復期、そして維持期へ、淀みなくスムーズな連携が必要であることは理解できるが、高齢者の慢性期医療・ケア、そしてリハビリに携わってきた立場で、単に流れ着く場所として位置づけられていることは、当法人の理念である「老人にも明日がある」のイメージとどうしても結びつかない。個人的なつまらない拘りなのか?あるいはコンプレックス?それとも被害妄想?果たしてそうだろうか。老人の専門医療を考える会にとっても、会の足跡を否定されているように思えてならない。でもやっぱり考えすぎなのだろうか。

介護保険制度創設に向けて走り始めた頃、リハビリ前置で制度が作られていくことを知り、自分の目指してきた道が開かれていくような明るい気持ちになったことが思い出される。「前向きに介護保険に取り組もう。同時に導入される回復期リハビリ病棟を在宅復帰促進の機能として位置づけ、復帰後の生活を支える『リハビリ』を充実させよう。」また、「在宅復帰が叶わない人たちに、帰れない辛さや寂しさを感じないでもらうために、私たちができることを見つけよう。」そんな気持ちで取り組んできた。

高齢者リハビリ研究会の委員にも就任し、医療保険から介護保険へのつなぎの重要性を主張した。介護現場でのリハビリの充実を仕事の中心に置き実践してきた。このような取り組みがやっと報われ、次回の報酬改定に結びつく可能性が出てきたことは、本当に嬉しいことである。

多くの人がその必要性は認めてくれるようになったものの、相変わらず「維持期」に対するイメージはリハビリ終了後の時期という認識が、医療に携わる人たちほど強い。冒頭に述べた「川上から川下へ」の考え方は、まさにこのような人たちの考え方であろう。

急性期から回復期は長くても六ヶ月程度であり、その後「自立した生活を実現するためのリハビリ」が必要な時期が数年、十数年、数十年と続く。人生のクライマックスのその時まで、個々の生活のニーズに対応したアプローチをすることこそがリハビリに携わる人たちの本懐にならなければならない。

私は「川上から川下へ」は「急性期から回復期」であり、その後の時期は、「海」と考える。元々の生活の場であった「海」に戻るために「川」はある。また、「海」は全てが川から始まっているわけではない。これは脳卒中や骨折などの急性期・回復期の時期を経る人たちのみがリハビリが必要なのではないことに通じる。

「海」はいつも穏やかではない。目標も見つけにくい。そのような波瀾万丈の人生・生活の場面こそ、私たちチームがサポートする最も重要な時期であり、場所であることを再認識するべきである。

リハビリは生活を展開していくための原動力です。「維持期」という名称は何とかならないでしょうか。皆さんで良いネーミングを考えましょう。 (20/11)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE