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老人医療NEWS第96号 |
民主、共産、社会、国民新党の野党四党は、五月二十三日後期高齢者医療制度を来年四月一日で廃止し、これまでの老人保健制度に戻す法案を参議院に提出した。今後、参議院を通過することは確かだが、与党の反対で成立することは困難であるものの、与党内でも見直し案が検討されており、七十五歳以上の医療制度が政争の具と化している。
小泉政権下で、わが国の社会保障費の伸び率抑制案は展開され、診療報酬、介護報酬の引き下げ、療養病床数の削減、自己負担比率の引き上げなどが実施され、本年四月実施の後期高齢者医療制度も創設された。
昭和五十八年に実施された老人保健法は、二十五年間高齢者の健康と医療費の保障を行ってきたが、高齢者医療に専門的確立もないまま財政的に大きな問題を抱えた。わが国の高齢者医療制度を変革する必要性は誰の目にも明らかである。後期高齢者医療制度の仕組みは、財政対策以外の何ものでもないことは自明であり、医療サービスの提供方法についても検討を加えざるをえないことは十分に理解できる。しかし、診療報酬改定で示された「後期高齢者にふさわしい医療」の姿は、国民に理解してもらうための説明責任をはたしていない。その上、少なくとも四月以降のドタバタは与野党とも政策を政局に利用するという醜い政治茶番と化している。
福田首相は「後期高齢者というのがまずければ、長寿医療制度というのもいい」などと法施行直前に発言。法治国家で国会で成立した法律の名称変更を軽々しく口にすることは、あまりのことである。この一言がすべての混乱のはじまりであった。
後期高齢者医療制度について、全面的に賛成している人は少ないが、なんとかしなくてはならないのでやむをえないと判断せざるをえないと考えた人々は多数いたかもしれない。つまり、全面的賛成とか、絶対反対というのではなく。財源もないので医療費の負担可能な高齢者には負担してもらいたいということ以外なにものではなかったハズだ。
しかし四月一日以降保険証が届かない。保険料の請求通知の誤配や誤記入もあった。その上「現在保険料を払っている人々の八割は保険料が安くなるはず」という厚労相の発言で、よく調べてみると実は高くなる人が多数いることが後でわかってきた。そうこうしている内に「年金天引きは知らなかった」「後期高齢者などと呼んでけしからん」「こんな制度やめてしまえ」と大合唱になってくると、なんと与党内もガタガタし「これでは選挙ができない」という事で与党内での見直しが制度実施直後に決定されるということにいたった。
その後も「後期高齢者終末期相談支援料」とはなんだ。老人は病院から追い出し、医療を受けずに自宅で死ねというのかという批判から、七十から七十四歳の医療費窓口負担を二割へ引き上げることを締結する措置を〇九年度も継続しろという意見や保険料九割減額したらどうかなどという案が与党サイドから連日のようにマスコミに流され続けた。
ただし、このような与党試案では最大で二千億円という金額が必要になるが、どのようにするかは不明であるばかりか、何のための財政再建であり、何を目的とした制度変更であったのかという根拠自体が不鮮明になったといわざるをえない。
廃止して老人保健制度へもどせと主張する野党、防戦一方で「つぎの一手」がなかなか打てない与党、という構図の中で、療養病床の削減もままならない方向へと向かっている。それでいいのかどうかはわからない。
しかし、この混乱のツケは高いものになるだろうし、高齢者専門医療の確立なしではどうにもならない。(20/5)