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老人医療NEWS第95号 |
二〇年度診療報酬改定で示された後期高齢者にふさわしい報酬体系は、財政対策上どうにもならないという状況で、知恵をしぼった結果であると思う。ここに示されていることは、外来医療においては医療機関へのフリーアクセスを管理する。入院医療は短期入院、早期退院促進、在宅ケアの推進という図式である。完全に後期高齢者医療制度はマネジドケアの世界に引き込まれたことを意味するのであろう。
老人の専門医療を考える会として言いたいことは山ほどあるが、基礎工事に手抜きがある建物は長期間の使用に耐えることができない。
医療の基盤は、医師の養成と研修、そして医学研究である。いくら国際水準の病院を建てても、医師が不在であったり、医師としての資質が低いということでは、医療は成り立たないのである。それゆえ、我々は老年専門医の必要性を長年主張してきたし、小さな会でありながらも会員同志の研鑽をはじめ、病院間のスタッフ交流、ワークショップとシンポジウムの開催などの活動を続けてきたのである。
七十五歳以上の高齢患者にとって必要なことは、専用の保険証や特別な診療報酬ではなく、高齢者の生活全体を適切にアセスメントし、治療計画を策定し、チーム医療を実践し、モニタリングと定期的再評価を繰り返すことのできる老年専門医の存在である。
今回の報酬改定で示された後期高齢者診療科(料)が原則として診療所にしか認められなかったのは残念である。しかし、後期高齢者診療料の算定には「研修」が義務付けられたことについては、小さな前進であると思いたい。
一般内科、老年精神科、リハビリテーション科の医学知識を基盤とする老年専門医は、多くの先進国で制度化されてきたのに、わが国では議論はされるが、制度としては未成立である。これだけ高齢者が急増しているのに、老年専門医がわずかしかおらず、その多くが慢性期入院医療を行う病院に集中している現状は、入院以外の医療を地域で展開する場合に大きな問題とならざるをえない。
一般内科を担当する診療所の多くは、高齢者の医療が中心となりつつある。そして、このような地域の診療所が高齢者医療をささえていることはまちがいない事実である。ただ、高齢者の総合アセスメントや老年精神科領域やリハビリテーション医学について知識が不十分な場合が少なくない。それゆえ、研修が継続して実践されることが大切だといえる。このことが徹底されなければ、地域における高齢者医療の基礎がゆらいでしまうのである。
後期高齢者医療では、病院以外での終末期が焦点になっていることは明らかである。少なくとも救命救急センターに、後期高齢者が大量に搬送されることも、終末期の医療費が高額になることをなんとか避けたいと考えていることは明らかである。在宅医療と訪問看護の組み合せで在宅の終末期医療を進めることも、老健施設や特養をはじめとする病院以外での終末期ケアを促進することは理論上可能であるし、決して実現しないわけではない。
しかしながら、地域で在宅終末期ケアを展開させるには、ケアのコーディネーションをはじめ、ケアに関わる人々の量と質が前提とならざるをえない。多くの療養病床が長年に渡たり高齢者のターミナルケアを担当してきたことは事実であり、そのノウハウも蓄積できているが、これを地域展開しろといわれると、はたして地域に基盤があるのか不安だ。
財政問題であるのはわかるが、老人医療をどうするのかを十分に検討せずに制度変更を強行すると老人医療自体が崩壊してしまう危機がある。 (20/3)