アンテナ

老人医療NEWS第94号

閉塞感からの脱出

平成二十年の幕開きは、暗く冷めたいもののように感じる。株価暴落に代表される世界経済の混乱、衆参両院のねじれによる政治的対立、いつまでたっても解消しない年金問題や企業の不祥事、そして医療問題や介護に関する連日の各種報道などをみききしていると、なにか悪い方向に向かっているにちがいないと思う。

老人医療の仲間と会っても、全員あまり元気もないし、なんとなく閉塞感を口にしている人が多い。療養病床に関する出口がみえない議論展開には、夢も希望もなえてしまいがちである。

オリンピックで盛り上る中国や、新大統領の政権交代で南北関係が世界から注視されている韓国の人々は、今の日本を「よぼよぼの老人国」とみているようである。悪口である「小日本人」という言葉が老日本人ということになるのかどうかはわからないが、世界からの日本への関心が急激に低下していることは事実なようだ。

なにも悪気があったわけでもなく、現状を正確に分析した大田弘子経済財政相の「もはや日本の経済は一流と呼ばれる状況ではない」との国会での発言は、あまりにもストレートに日本がおかれている立場を表現している。

このような時代こそ国民生活のセーフティネットである医療や介護がしっかりしないといけないし、将来のために教育や環境という問題に対しても特段の国民的配慮が強く求められなければならないはずである。しかし、国の医療政策や介護に対する行政の姿勢は、医療崩壊に代表される無策状態と財政再建という、できそうもないアドバルーンによる庶民切りすての財政対応により、長年創り上げてきたものを破壊しつづけることになりかねない。まさに「失われた十年」から「失う十年」へと航路を進んでいるとしか思えない。

こんなことを長々と書いていても一向にらちがあかない。どうしたものかと考え続けてもなにも思いつかないが、このような状況が長くなると精神的に病気になりそうである。病は気からというが、経済の専門家の中には景気も気からという人が意外に多い。「マダはモウなり、モウはマダなり」などと株式の世界ではいうが、一国の景気は、国民の気が「ダメ」という方向に向いている時には良くならないらしい。

これが本当なら、国民が「これからが上げ潮だ」と思うと景気が回復するという、なんだか変なことになる。だが、いいえて妙だ。

これから先、人口が減少して、高齢者が増加するのであるから、経済も成長しないかもしれないといわれれば、そうかと思ってしまうが、本当のことはだれもわからない。わが国より先に人口減と高齢社会になった国々の経済が成長していないわけでもない。このことは、老日本だからモウダメということでは、決してないということである。

北欧も西欧も、東欧そしてバルカン半島の中欧と呼ばれる国々も、元気だし、経済発展していることは事実である。こうなると、日本人がダメなのではなく、日本のやり方や仕組がダメなのだということが良くわかるはずである。

老人医療や介護は、とても大切なサービスであり、仕組みであり、国民の一人ひとりが支えるものである。それにもかかわらず、サービス提供するわれわれが、閉塞感に苛まれていては、いけない。リーダーがふてくされていては、職員もやる気をなくしてしまう。

つまり、この閉塞感から脱出するには、まずわれわれが気を取りなおして、元気、やる気、本気にならなければどうにもならない。政治家や官僚が無力になったとしても、われわれが、もう一度、実践者として渾身の力をふりしぼろうではないか。
(20/1)

前号へ ×閉じる
老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE