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老人医療NEWS第93号

お年よりは在宅死?

二〇〇八年度診療報酬改定は、どうやらマイナスにはならないようだ。ただ、こと高齢者の医療については、雲行きが怪しい。特に、後期高齢者医療については、@退院後の生活を見越した計画的入院医療、A入院中の評価とその結果の共有、B退院前後の支援、が骨子であると説明されているが、比較的長期の入院にならざるをえない後期高齢者の入院患者さんに対する配慮は、なにもないかのようである。

@の計画的入院医療とは、地域の主治医から新規入院する患者さんの病歴や薬歴情報の提供がなされ、入院中には診療計画を作成して治療を進め、退院計画に基づき入院前の主治医と連携し、退院後は主治医が引き続き治療を進める。このような地域連携退院時共同指導料については、従来は医師、看護師のみであったが、新たに歯科医師や薬局薬剤師が、共同指導に参加した場合も評価することになっているらしい。

Aの入院中の評価というのは、退院が困難な患者さんに対して看護師や社会福祉士が要因を把握し、地域の主治医や訪問看護ステーションへの連絡などを通して退院支援計画に基づいて評価するとともに、薬剤師や管理栄養士なども総動員してまで退院に結びつけようとするものである。しかし、退院困難な患者さんに対して多くのアプローチをしても、帰れない場合が少なくない現実に対して、この程度のことでは何も期待できないと思う。

Bの退院前後の支援とは、主に主治医の役割に期待している。つまり、主治医は、日頃から患者さんの病歴や他の医療機関の受診状況等を集約し把握するとともに、認知機能を含めた総合的アセスメントと生活指導を進めることが求められている。そして、専門的な治療が必要な場合は、適切な医療機関に紹介し、治療内容を共有することが大切で、退院の支援も主治医が重要という考え方である。

この程度のことを、今さら診療報酬に点数化したところで、何か影響があるのかと疑問に思う。在宅ケアを充実することには賛成であるし、社会福祉士や管理栄養士、薬剤師、歯科医師の活用も大変重要であるが、これらの取り組みは、われわれが中心となって進めてきたことで、なにもめずらしくもない。

ただ、どんなに医療サイドが努力しても、退院が困難な後期高齢者と呼ばれる患者さんが少なくない現実はどうにもならないと思う。

もっと本音でいってしまえば、後期高齢者の療養病床への入院や一般病床での長期入院は、金がかかりすぎて対応できないので、なんとか早期退院させる方向にしたい。どうしても長期になるのであれば介護保険施設を利用して欲しいし、なんとか在宅で安上がりに済ませる方法も考えるべきだ。また、終末期医療についても、施設より在宅、医療より介護で対応させて安上がりにしないと、国の財政は成り立たないというのが、国の考え方であろう。

とはいっても、国が思う程そう簡単なことではない。自宅で家族にみとられ大往生。もちろん、それを望む人々も多いだろう。

しかしだ。そうはいかなくなってしまった世の中を後期高齢者医療制度で何とかできるのだろうか。

最近の診療報酬議論では、もはや高齢の入院患者の長期入院は不必要であるかのように無視されていると思えてならない。在宅ケアでは無理。介護保険施設では対応できない。急性期病院からは追い出される。回復期リハビリテーション病院で努力したが、結局は帰れない、といった入院患者さんは、いったいどこに行くのだろうか。医療が必要な長期入院高齢患者さんは、一五万床の医療療養病床に殺到するのであろうか。

結局、無策を露呈しているだけだ。 (19/11)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE