アンテナ
|
老人医療NEWS第92号 |
いわゆる潟Rムスン事件の後始末で、厚生労働省老健局は、「介護事業運営の適正化に関する有識者会議」を設置し、法令遵守のために必要な措置、広域的な事業者に対する規制、そして事業廃止後の利用者のサービス確保などについて検討を進めているらしい。
いまさら訪問介護事業に株式会社を参入させたことの是非を議論してもしようがないが、どうも低賃金で社会保険にも加入させず、ひたすら利益を求める株式会社が少なくないらしい。制度導入当初に予定していなかった大手数社で市場の六割以上を占めるという現状に唖然とせざるを得ない。
一方、会員の法人の訪問介護事業は、利益どころではなく持ち出しの場合が多い。我々老人専門病院の介護職員の一時間あたり人件費は、株式会社の訪問介護職員の一・五倍以上、ベテランになれば二倍以上になる。それでも、株式会社の訪問介護職員は、スーパーマーケットのパートなどより割のよい仕事だという。
最近、介護保険事業者が、口々に介護報酬の低さを主張しているのは興味深いと思った。介護報酬が一定なら、人件費を下げることでしか利益が上がらない構造になっていることになるが、適切な人件費を支払わなければ、質は維持・向上できない。このような当たり前のことが理解されないのは悲しい。
介護保険制度の根幹を揺るがしかねない事件の再発防止策は、必要不可欠であるが、それが単に事業者に法令遵守を求めただけでは、何も解決しない。また、規則を強化して厳罰主義的な対応のみでは、多くの利用者に安心と安全を提供することは出来ないであろう。考えておかなければならないのは、再発防止のための何らかのシステムの導入である。
介護保険制度は、その創設時から電子媒体化の推進を掲げてきた様だが、それが実際に進まなかったのは、情報の収集・蓄積・分析・評価といったことが欠けていたからであろう。
紙ベースの膨大な書類の管理不全、未熟な紙ベースから電子媒体への変更作業、バックアップ・システム無しの制度改変、公務員のモラル低下と公務労働におけるミス・マネジメントなどによる社会保険庁の年金問題事件によって、国民は愚弄されているように感じている。結局、全てを行政任せでは、何も問題は解決しないと言うことを我々は学ばされた。
話を介護事業運営の適正化について当てはめると、適正化は、必要不可欠であるが、どう考えても法令遵守のための措置や広域的な事業者に対する規制強化だけでは限界がある。ただし、地域ごとに介護保険サービスの質の向上や医療介護の連携が推進されようとしているにもかかわらず、横暴な株式会社の不正行為の前に、行政も善良な事業者もなすすべがないということでは、介護保険制度は維持できない。
こうなると、最小限の規制強化、大規模・広域事業者への監視体制、全国データによるチェック機能の構築、事業者に対する他の事業者、利用者、医療介護等の専門職団体による情報共有化などという良識的なことが考えられる。
しかし、いくら良識的なシステムを構築しても、ルールを守らない輩が事業に参入しているのでは、再発は防止できない。これと同じように、不正や著しい不当を繰り返さない限り利益が出ないというのであれば、介護報酬自体が不適切と言わざるをえないだろう。こうなると、ある程度の質を確保できる報酬設定が改めて必要になるのである。
いつの世も「悪貨が良貨を駆逐する」のであろうが、介護や高齢者の専門医療を単なる「貨幣」にしてはいけないし、必要な費用は国の責任で支払うべきである。
(19/9)