現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第96号 |
老人医療の質の評価プロジェクト
老人医療には急性期・亜急性期・慢性期が含まれています。日本でも約一〇年ほど前から、医療不信、医療訴訟がクローズアップされ、医療安全の重要性を再認識し、院内業務改善や、誤薬・注射器の誤使用に対して薬剤・医療材料の改善に取り組んでいます。さらに、米国では義務付けられている病院の臨床指標(手術件数や平均在院日数など)を急性期病院では徐々にホームページ等で公表し、患者・ご家族に選ばれるよう努力してきています。
六二八床を有する当院は、整形外科病棟や、回復期リハビリテーション病棟、療養病棟、精神科病棟と様々な老人医療の機能をもち、亜急性から慢性期医療を主体とした病院です。危機感を感じながら、選ばれる病院を目指し、二〇〇五年にTQM(TotalQualityManagement/総合的医療の質管理)センターを立ち上げました。
現在の日本には亜急性から慢性期医療の質を評価できる臨床指標(ClinicalIndicator/CI)がまだなく、当院ではその指標を独自に作るところから行ってきました。項目は、各部門から比較的容易にデータを集めることができ、業務改善につなげられ、患者・ご家族だけでなく職員にも利益になるものを選びました。例えば、口腔ケアの方法を統一し、歯科医師が評価した「口腔内清潔度」を各病棟に毎月、評価して戻すことにより誤嚥性肺炎が減少してきました。また、入院後の新規褥瘡発生率も栄養ケア回診や褥瘡予防マットの導入により、大幅に改善してきました。転倒・転落率も各病棟に結果を戻すことにより、どうして当病棟は高いのだろうと考え、改善するきっかけに繋がりました。
平成二〇年度診療報酬改定で、回復期リハビリテーションの成果主義指標が導入されました。重度の方もある程度の比率で入院させて、看護必要度・ADLが改善すれば加算が付くようになりました。今後、慢性期医療にも成果主義指標ができてくることが予想されています。平成二〇年三月一三日に開催された老人の専門医療を考える会幹事会でも、「老人医療の質の評価プロジェクト」を立ちあげることが次年度の事業計画の一つとして了承されました。
当老人の専門医療を考える会では一五年前から毎年、全国の約二〇〇病院を「老人病院機能評価マニュアル」により老人医療の質を七つの視点(A運営の基本理念、B医療・看護・介護、C患者・家族の満足、D病院の機能、E教育・研修、F構造・設備・器具、G社会地域への貢献度)で自己評価してきました。東邦大学医学部社会医学講座教授の長谷川友紀先生からは、この実績について、膨大で貴重な資料であり、すばらしい評価実績であると称賛をいただいております。
病院の機能面、環境面、人的面を評価する「老人病院機能評価マニュアル」調査を今後も継続しつつ、さらに、今回のプロジェクトで、多様化した会員病院の機能に合わせた評価内容も考え、病態の変化や患者に関わる老人医療の質の臨床指標を作成し、実施評価していきたいと思います。全国の会員病院から十数病院の参加を得、長谷川友紀先生にもご協力いただき進めてまいります。国に先んじて老人医療の臨床指標を作成し、データ集積・評価・活用することにより、日本の老人医療の質の改善に繋がることを願っています。 (20/5)