現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第95号

療養病床の存在意義

原土井病院 理事長 原 寛

日本が世界一の高齢社会になった二十一世紀に公的介護保険制度が成立し、二〇〇八年から後期高齢者医療制度が開始されるなど、高齢社会対策が整えられつつあります。

現在の制度では、医療療養病床と介護療養病床を、高齢者の病状・介護・障害の生活状況によって使い分けることが出来るので、患者さんのために適正な入院施設を選べます。療養病床は、医療を必要とし、特別養護老人ホーム・老人保健施設で受け入れることができない高齢者に対応するために、介護・生活までを一体的に考え、二十四時間三六五日、医師・看護師が常駐しています。また、広範な医療行為、手厚い看護を行える体制を有しているのが療養病床の特徴です。とりわけ、高齢者のための最適な機能をもつ介護療養病床は、他国でもあまり類をみない施設だと思われます。この機能を病院から他の施設にするというのは、世界で最も良いであろう制度を中止することに他なりません。

介護療養病床を、特別養護老人ホームや老人保健施設等の介護保険施設に変えてしまうと、医療ができない、あるいは看護が手薄になるため、手のかかる病気、重症もしくは末期の患者さんや、急変した時には、急性期病院に受け入れてもらわざるを得なくなります。

一般の急性期病院は、急性期医療のみであるため、高齢者医療の一部である生活機能の回復や介護には重点がおかれていません。従って、病気が治ってもADLは低下する傾向にあり、寝たきり老人が増加することにもなりやすく、結果的に、医療費も多くかかることになります。

療養病床では、特殊な病気の治療は別にしても、入院中の多様な医療には対応可能で、夜間や祭日休日の医師・看護体制があり、万一のときも治療できるという安心感があります。また、ターミナルケアになった場合も、他病院に転院させることなく医療・看護・介護一体としてチームケアで対応するので、高齢者が高いレベルのQOLで一生を全うすることが出来ます。この様に、理想的な機能を止めるのはなぜでしょうか。

今までの医療、特に病院は、海外の先進国を見習い、同じ様な発想で形成されてきたと言えます。すなわち、一般病院は急性期で、小児・成人主体であり、老人に対しては部分的な臓器別での治療はするが、全身的医療と全人的問題や、老化に対する医療は入院の適応ではないとする考え方です。外国ではナーシングホーム等が整備され、老化による入所において、医療的治療はあまり考えず、看護・介護が主で、自立的生活が出来ない人は早く亡くなることが多いのです。

日本の場合は、虚弱である上に、いわゆる「寝たきり」の方など、自立できない高齢者が多く、在宅では、核家族化の影響もあり、家族による介護も多くは期待できず、医師・看護師・ヘルパーなどの訪問が必要となります。そのため、医療があり、看護・介護も可能な場所として療養病床が出来たのだと理解しています。

今後は、自立できる老人を増やす努力をすることが必要になります。しかし、世界的にみても日本は高齢者の数が多く、三〇万床以上の療養病床が必要だと考えます。団塊の世代が七〇歳以上になる一〇〜二○年後まで老人人口は増え続けます。このような背景からみても、今まで以上に、多くの療養病床が求められるのではないでしょうか。(20/3)
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