現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第94号

あなたの施設は療養病床の問題をどのようにされますか

医療法人久仁会鳴門山上病院 理事長 山上久

私どもの施設は築後三〇年近くなり、施設や設備の老朽化が目立ち、時代に沿ったアメニティなどに対応するために、施設の全面増改築を数年前から計画していました。そのため、諸先輩の施設や先進施設を参考にし、アメニティ向上のため、いわゆる「個室・ユニットケア」の採用やプライバシーの確保、そして職員の働きやすさなどを目指し設計を進めていました。しかし、介護療養病床の廃止・転換問題で到底そのような工事を行うことは不可能となり、方針の再検討が求められ、建築計画を全面的に見直すことが必要となりました。

更に「姉歯問題」などによる建築基準法の改定はあまりにも厳しく、現実離れしたもので、建築確認がほとんどしてもらえない上に、少しの設計変更でも一から申請のやり直しが求められるようになりました。新基準に則った審査基準もまだ明らかにされていません。改定前には中国の景気による鉄などの高騰や消費税などを例に挙げ、建築を急ぐようにと勧めていた設計士や建築会社も、しばらくは様子を見るように、とのアドバイスで、実際、当地域でも改定後は建築許可がほとんど下りていないようです。

また、具体的に転換・改築を進めている他施設では新たな問題も起きているとのことでした。たとえば消防法では、病院と老健施設の耐火基準等に違いがあり、老健施設への転換には全面耐火構造を要求され、改築ではなく全面建替えを求められたケースもあるそうです。厚労省だけでなく他省庁の管轄と関わる問題も多く、厚労省にはその対応も早急に進めていただきたいものです。

また、老健施設への転換には各種の経過措置や交付金などの転換誘導が図られ、今のところは大きな改造工事を行うことなく転換できるようになっていますが、平成二十四年四月以降は老健の面積基準を満たす必要があり、それまでに増改築もしくは病床削減による対応などが必要となります。その工事には大きな借入も必要となります。更に大きな問題として、転換のための大規模な増改築工事は新たな増収が見込めるものではなく、逆に転換により、施設には一床あたり年間約一〇〇万円の減収が発生します。このことは、仮に交付金が一床につき一〇〇万円あるとしても、突き詰めると転換による減収の一年分の返還を受けるだけにしかならないとも言えます。それも、自分の財布から出していることに他なりません。

これらを鑑みながら、利用者のためにも、施設側にとっても、必要かつ適切な転換等の計画をしっかりと立ててゆかねばなりません。しかし、国の方向性がまだ未確定であり、方針の変更も頻回に行われるため、当施設もどれだけの病床を転換すべきか最終決定できない状況です。

当院では現在百二十床の介護療養病床がありますが、全てを老健施設に一気に転換するのではなく、六〇床を医療療養病床に、六〇床を転換型老健に移行させようと考えています。そして、医療保険に対応した病棟(一般病棟、療養病床)の増築を優先し、既存の設備・建物を介護保険施設(既存老健と転換型老健)として運用し、制度や地域のニーズをみて、時間をかけ最終的な改築を目指してゆこうと考えています。

どちらにしても患者様、利用者様に求められる施設、職員が働きやすい施設を目指したいと考えています。 (20/1)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE