こぼれ話
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老人医療NEWS第92号 |
三年ほど前から計画していた新病院が、いよいよ一〇月に開院できる見通しとなった。新病院は、一七二床の回復期リハビリテーション病院で、内一四床はストロークケアユニットを目指している。
今回の新病院を建築するにあたり、とても貴重な体験をしている。きっかけは、新病院建築のディレクションを行うクリエイティブディレクターとして、デザイナーの佐藤可士和氏を起用したことである。
私は、病院建設にあたり、元来の病院のイメージを壊して、もっと美しい、居心地の良い空間を作るにはどうすればいいかと悩んでいた。せっかく新しい病院を建てるのならば、中途半端な物を作りたくない。そんなとき出会ったのが、すでにテレビなどで活躍ぶりを拝見していた可士和氏である。
会ったときの第一印象は、「非常に真面目な人」。才能あるデザイナーは、どこか「とんでいる」というイメージをもっていた私は、意外に思ったことを覚えている。また、「デザイナーという仕事は、たとえて言うなら、医師かもしれません。患者であるクライアントが困っているところを見つけ出し、デザインという治療を施していくわけですから」という可士和氏の言葉も興味深かった。
それから、一年間、ほとんど毎週顔を合わせ、打ち合せを行ってきた今でも、「真面目で誠実」という印象はまったく変わらない。そして、「デザイナーは医師のようなものです」と言っていた彼の言葉に、うそはなかった。何となくしっくりこない、違和感がある、そういったうまく言葉にできない私の訴えをひとつひとつ聞き出し、デザインによる解決法を提示してくれる。
例えば、「身体的だけでなく精神的なリハビリテーションを行いたい」「ホテルの居心地の良さを取り入れたい」といった曖昧模糊としたこちらの思いを「リハビリテーション・リゾート」という言葉に集約し、このキーワードをコンセプトにしたデザインを起こしてくれた。そして、クリエイティブディレクター佐藤可士和のもとに、ユニフォーム作りのためのファッションデザイナー、照明デザイナー、アメニティグッズのデザイナー、コピーライターなど、さまざまな専門分野の人たちが集い、チームとなって「リハビリテーション・リゾート」を作り上げてくれた。
また、以前からぜひリハビリテーションの一環として取り入れたかったアロマセラピー、トリートメントマッサージ、フットケアの専門家を紹介してもらうことができた。さらに、ブックセラピストによるブックセラピーの試みも進行中である。今まで高次脳機能障害の訓練等に使用される書物は、小学生の算数や絵本等幼児向けの物が多く使われていて、患者さんに対して配慮が足りないと思ってきた。もっと大人にふさわしい書物や写真集があるはずである。それらの選書を専門にしている方とともに選んだ。
私にとって未知の分野であったデザイナーの仕事、それも、いまや時代の寵児とも言える才能溢れる人との仕事は、非常に楽しく刺激を受けるものである。私は建築の専門家でもデザインの専門家でもないため、病院建築を使って表現したいものがあっても、なかなか思うようにはできないし、皆に伝えられない。その思いを整理して、正確に理解し、わかりやすく伝えて具現化してくれる人が佐藤可士和氏であったと思う。
運営はこれから始まるので、まだまだ道は遠いが「デザインの力で病院が変わった」と感じられるように、われわれ医療スタッフも上手に建物、空間、システムを利用していかなければならない。
どのような病院であるかは、実際に見ていただくのが一番であると思う。ぜひ、見学にどうぞ。 (19/9)