こぼれ話

老人医療NEWS第93号

「リーダー」の条件
西円山病院院長 峯廻攻守

二〇〇七年九月十五日、第五回 日本医療BSC研究学会年次学術集会が、当法人理事長秋野豊明大会長の下、開催された。シンポジウムは、「コラボレーション」をテーマに三人のシンポジストが熱弁をふるった。今回はその中のお一人、森重隆氏のお話の中から印象に残ったものを御紹介したい。

森重隆氏は、明治大学卒業後に新日鉄釜石(現 釜石シーウェイブス)に入社し、昭和五十四年から昭和六〇年までのV7を含む通算八度のラグビー日本一に輝いた原動力となり、主将・監督として活躍され、松尾雄治氏と共に新日鉄釜石の黄金時代を築かれた。またラグビー日本代表チームの主将も務められた。

現役時代のポジションはセンターバックで、スポーツ選手としては小柄であったが、プレーは誰よりも熱く、小さな体での強烈なタックルを身上とする一方、緻密なゲームを組み立てる理論家でもあった。また監督としての手腕は高く、チーム作りの目標は「十五人全員で同時にタックルを仕掛けること」であった。

現在は、福岡市で森硝子店を経営するかたわら、母校の福岡県立福岡高等学校の監督、日本ラグビーフットボール協会理事、福岡市教育委員も務められている。

以下、森氏の発言から印象に残ったものをまとめてみた。

一.どんな組織(あるいはチーム)でもコラボレーションがうまくいくかいかないかはリーダー次第。すなわち、組織の命運はリーダーに始まってリーダーに終わる。

二.リーダーの最低条件 その一

組織のリーダーとしての前に、社会の構成員の一員として基本的な事がきちんと出来る人でないと、チームメイト・スタッフはついて来てくれない。逆に人を指導することは出来ない。

三.リーダーの最低条件 その二

選手およびスタッフの真の喜びは何かを知っている事。選手やスタッフの喜びの基本は、チームの役に立ったと感じられる事、チームの成果の一翼を担えたと実感できる事である。

四.良いリーダーの条件 

@科学と非科学の両方とも必要であることを分かっている事。

A理論と非理論の両方とも使いこなせる事。

B指導場面では「ゆっくり」「優しく」「わかり易く」説明することが出来る事。

C真剣に叱ることが出来る事。

D人材育成とは、初めは「強制」、そして出来るようになったら、「自由」を与え、更に「自主性を尊重」することが出来る事。

五.リーダーシップとは

これは敵将早稲田大学 故大西監督の言葉との事だが、『リーダーシップとは、「すべてを愛する能力」であり、これは「天性のもの」であり、「無い者」にはない』そうである。

以上であるが、「医療崩壊」どころか「日本崩壊」の真っ只中にいて、西円山病院という一つの組織のリーダーとなって一〇年目となった現時点において、自分はスタッフのために真に存在価値のあるリーダーなのかどうか、考えさせられる森氏の講演であった。

折しも、昨年九月二十六日小泉「構造改革」を継承し、「戦後レジームからの脱却」と、訳のわからない「美しい国づくり」を旗印に、日本のトップリーダーとして登場した安倍晋三首相が、二〇〇七年九月十二日に突如として日本国と国民を投げ出し、辞意を表明した。ちょうど三六五日で総辞職となった。無責任極まりない話である。それでもなお安倍氏は、議員を辞めないらしい。このような事が国会で問題にならないのであれば、私の個人的問題どころか、日本の明日も本当に憂慮される今日この頃ではないだろうか。 (19/11)
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