現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第92号

歓び発見運動

奈良春日病院院長 久富充廣

「先生、身体に気をつけて下さいよ。私の生命は先生に預けてるんやからね」。九〇歳を超えた患者さんが顔をじっと見つめ、しっかり手を握り真剣に語りかけてくれる。日常の診療の中で、医師として患者さんから思わぬ歓びや感激をいただくことも多い。

昨年の医療区分導入への対応が一段落したら、この六月には介護療養病床廃止に伴う転換メニューが提示された。どの道を選ぼうと前途多難ではあるが、そろそろ我が行く道を定めなければならない。医療安全、地域連携、病院機能評価更新に向けての準備など、対処すべき問題は山積している。

このような時、患者さんから示される感謝の心は医療人にとって何よりの歓びであり、明日への活力となる。高齢者医療に携わって二十数年になるが、その時々で出来る限りの事をしたつもりであっても、今思えば随分稚拙な対応しか出来ていなかったことを思い知らされている。

老人の専門医療を考える会で学び、刺激を受け、この会の一員として恥ずかしくない病院でありたいと願って来た。その時その時に要求される機能水準を保ち、出来れば一歩でも前を進んでいたいと思っているが、その為にはいかに職員全体のモチベーションを高め、持続させていくかが重要となる。

制度改定があるたびに現場にも次々と新たな業務が義務づけられ、ボリュームが増えていく。今後の展開を考えるとマンパワーやハード面でのレベルアップも必要だが、現有戦力のスキルアップも欠かせない。しかし、あれもこれもとなると現場にゆとりがなくなる。皆が一所懸命になる程、不消化の部分が目につき、現場でストレスが膨らんでくる。

そこで、何とか職員のモチベーションを落とさぬよう、あの手この手と工夫もしてみる。こちらの思いを伝えるだけでなく、職員の思いも知らねばと、今年は病院の年間目標のひとつを、「働きがいのある職場づくり―職員満足度の向上―」とした。具体的には、仕事、職場、待遇などについて意識調査を行い、問題点の分析と改善への取り組みを始めた。給与面の満足度を得るのは難しい所もあるが、実績が上った年は特別賞与制を設け、納得をえられるように努めている。

仕事の有り様、人間関係などは、現場の管理者の能力が大きなウェイトを占めるが、医療、福祉という仕事の社会的意義、医療人としての使命感を認識してもらうことで一体感も出て満足度に繋がっていく。

いくらやってもパーフェクトにはやり尽くせないこの仕事で、燃えつきてしまわないよう、職員皆に数年前より「歓び発見、いい事捜し運動」を推奨している。ネガティブポイントばかりみて気落ちしないで、うまくいってる事を評価し、自分を褒めてやることも時に大切だ。

冒頭に紹介したように、私達の仕事は患者さんから直接いろんな反応を頂く。いい反応には素直にそれを歓び、そして「もっといい事はないか、歓びを貰う種はないか」と、自分の周囲をみまわしてみる。患者さんや職場の仲間から貰う歓びは何よりも自分の仕事の誇りややりがいとなる。

こんな事を考えながら、職員と共に迫りくる嵐に敗けぬ気概を持って、より質の高い高齢者病院、施設として前進していきたいと願っている。(19/9)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE