アンテナ

老人医療NEWS第90号

四半世紀前の悪夢と決別

老人の専門医療を考える会は、設立二十五周年、このアンテナも九〇号となりました。なによりも会員および読者の皆様に感謝します。

われわれが何を成し遂げたのかということは、正直いってよくわかりませんが、老人の専門医療の確立が必要だというメッセージは確実に伝えることができたと思います。

そんなことは、当たり前ではないかと叱られてしまうかもしれませんが、実は、この「当たり前」とわれわれは戦ってきたのです。四半世紀前のわが国の老人医療の現場は混乱していましたし、われわれも未熟でした。全員が四十歳前後の医師であり、民間医療機関の院長か副院長で、老人医療に夢をかけていました。

老人保健法が制定され、老人病院制度が施行されました。老人病院は算術病院で悪い病院なので経済的に制裁すればいいという雰囲気が、当時の厚生省を支配していました。医療費適正化が強調され、注射も検査も薬剤も大幅に引き下げられました。

もともと、われわれは過剰診療に疑問を持っていましたし、ケアを重視することが必要と考えていましたし、医師と看護師だけでなく、リハビリテーション職員やメディカル・ソーシャル・ワーカーを重視したチームこそが大切だと思っていました。

このことを厚生省の若手職員に話してみましたが、医師である技官も事務官も、チンプンカンプンで「それでも医療費は適正化しなくてはならない」の一点張りでした。何か老人病院を取り締るのが当たり前と考えているようでした。

お互いに若かったということでしょうか、議論というより完全にケンカになった時もあれば、相互に理解できることもありました。何しろ現場をみて下さいということで、われわれの病院を訪問してもらったりもしました。

「百聞は一見に如かず」

われわれは、学びました。一度も老人医療の現場をみたこともない人々が政策を立案しているのだということをです。このことは、当会の歴史的成果として、書き残しておきたいと思います。官僚は、もっともっと現場に足をはこべということです。

老人の専門医療の理念を熱く語り合い、多くのことが現実のものとなりました。

「ベッド・イズ・バッド」「老人の人権」「MSW配置」「リハビリテーション充実」「寝食排泄の分離がケアの基本」等々。

「若い医者が、何をわけのわからんことをいっているのか」という批判も受けました。老人入院患者は、寝たきりが当たり前という時代でした。

老人保健施設制度の創設、老人病院への報酬包括化、在宅ケアの促進をはじめ、ケアプランにも療養環境改善にも努力することができましたし、介護保険制度創設にも協力できました。

四半世紀の時が過ぎ、今「後期高齢者医療の在り方」が問われています。「新たな診療報酬体系については、必要かつ適切な医療の確保を前提として、その上でその心身の特性等にふさわしい診療報酬とするため……」という参議院の附帯決議がなされました。

何となくわかるような、まったく意味不明の文章です。だれが「必要かつ適切な医療」の内容を決めるのでしょうか。何が「心身の特性等にふさわしい」のでしょうか。まさか、すべてを診療報酬で「確保」できると考えているとすれば、それは完全にマチガイです。

歴史は繰り返されることはないでしょうが、四半世紀前の悪夢に限りなく近づいているように思います。

経済が医療を豊かにしてくれることは事実ですが、経済的理由のみで医療をねじまげてはならないということが、当たり前ではないでしょうか。 (19/5)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE