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老人医療NEWS第89号 |
後期高齢者医療制度の準備が進んでいるらしい。具体的な内容が示されているわけではないが、医療関係団体のほとんどが反対意見を表明しているにもかかわらず、なにがなんでも制度化するのであろう。
在宅医療、訪問看護の充実、かかりつけ医の体制強化、終末期医療の検討などといったことが、強調されているが、それぞれ課題を真剣に考えれば考えるほど、何も解消できない可能性もある。
厚労省では、高齢者向けの診療報酬が検討されているというものの、方針も、方向も不明確で、たたき台さえないのではないかと考えざるをえない。どうしても制度化するのであれば、老人医療に対する考え方や、ビジョンを国民に明確に示した上で、診療報酬上の議論をオープンに、そして広範に進めるべきであろう。密室での作業を続け、短期間のうちにパブリックコメントを求め、そして正味一ヶ月間しか医療機関に与えず、改定してしまうということをさせてはいけないと思う。
後期高齢者に対する医療をどのように考え、どのような仕組みで、国民に提供するのかといったことは、わが国の医療や福祉分野のみの問題ではなく、わが国が後期高齢者の一人ひとりをどのように考え、どのようにあつかうのかといったことを意味する。もちろん、医療経済的な問題は重要であるし、資源に限界があることは十分に理解している。ただ、この国のかたちが問われているのだという認識を前提に議論しない限り大混乱が生じるのではないか。
高齢者の医療問題は、高齢社会を体験している国では、どこでも大きな社会問題である。こうした各国が各種の対応を進めているが、決め手となる解決法があるわけではない。
まして、どこの国も経験したことのない超高齢社会に向かっているわが国の選択は、それこそ世界の関心事なのだ。
わが国の診療報酬は、長い歴史があり、いろいろな問題もあったが、制度としては定着しているといっていい。ただ、二年ごとの改定でコロコロ変わるために、十年前と比較してみると、何が何だかわからなくなっている。特に、医療費抑制のために無理に導入した姑息な点数は、短かければ一年未満、長くても十年で姿を消している。
かかりつけ医というと、英国の登録医とか合衆国の家庭医というものが連想されるが、よく調べてみると国によって制度の差が大きい。しかし、かかりつけ医の機能とか役割はおのずと類似しているように考えられる。
わが国では、外来総合診療料という制度が一時期導入されたものの、結局制度として定着しなかった歴史がある。もう一度、同じようなものを制度化する可能性が高いが、はたして過去の教訓が生かされるのであろうか。
もし、かかりつけ医の診療報酬を検討するのであれば、後期高齢者には必ず「かかりつけ医」を決めてもらうことと、定額化するのであれば、一定内の薬剤も包括化した方がよいと思う。もちろん、生命維持のための必要不可欠な医薬品についてはこの限りではない。
もうひとつの課題は、かかりつけ医は、高齢者医療についての生涯教育を受けることが必要であるということを明確にして欲しい。急性期医療と高齢者医療とは、当然同じ部分もあるが、実は細部については、考え方自体が根本的にちがう。
延命のみを追い続けるのでもなく、さりとて粗診粗療でいいというものでもない。老いの生活に寄り添う「尊厳と安心を創造する医療」であって欲しい。このことは、当会の理念であり、わが国の後期高齢者医療のミッションであると思う。 (19/3)