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老人医療NEWS第88号

財政政策だけでは質は確保できない

いまさらながら、政府の進める医療・介護施策の展開は、主に財政対策上の対応でしかない。

保険料も一部負担も引き上げ、診療を引き下げる。その上、今後の費用の延びを抑制し、強力に財政対策を進める。一方では、そうしなければ保険制度を維持することができず、制度の持続可能性のためにも必要な措置だから理解しろ、他方では医療・介護の分野は高コスト体質であり、質の低下を招かない一層の効率化が必要であると強調する。

御説ごもっとも、という訳にはいかないが、そういう見方があることは承知している。しかし、教育や住宅施策でも、まったく同様のことがいえる訳であり、なんでもかんでも受益者に負担をおしつけ、サービス提供者のコスト改善を強要することだけが、この国の政策であるというのであれば、この国のかたちから考え直さなければならない。

急激な高齢社会では、自らの貯えや家族の支援を前提とした老後生活は確保できないので年金や医療制度が必要であり、さらに介護保障も不可欠なので介護保険を創設しようという国民的合意が一〇年前にあり、国民の理解と協力によって介護保険制度が創設され、本格実施されてから、わずか七年しか経過していない。

医療や介護報酬の引き下げは、容認できない。それ以上に、厳しい設定の延び率通りに、費用抑制を継続するということだけでは、国民の医療と介護を保障することはできないのではないか。医療・介護の財政対策も財源対応も、いつの時代にも困難であったし、大きな政治問題であった。なにか、医療・介護の事業が儲かっているので、株式会社にも新規参入させる。あまり事業として旨みが少なくなったので、取り合えず一層の費用の抑制をしたらいいのではないか。それでも医療と介護の質が守られるということが大前提の戯言でしかない。

高齢者の長期ケアについては、財政的問題ばかりか各種の課題が山積みされており、先進国共通の政策課題であるといえる。しかし、わが国のように、財政対策一辺倒というのは大変めずらしい。

たとえば、イギリスの医療や福祉などの社会サービス改革の基本理念をみると、まず全国的なサービスの高い水準と十分な説明責任からはじまり、代替的な供給主体の養成と選択の幅の拡大などの明確な原則が示されている。

政府や自治体自らが情報開示を進めるとともに、政府が質に関する方針を決定し、各自治体が業績評価を進めるというシステムである。もちろん、財政的問題を無視しているわけではないが、同じ費用で質が高くなれば効率的であると考えているのである。

わが国でも、介護サービス情報の公表や医療情報の開示が進められているが、どう考えても財政対策が主で、質の向上が従の関係にしかみえない。また、将来的に医療・介護をどのように政策展開するのかといった原理原則が開示されないというか、財政に振り回されて、原則を見失っているとしか思えない。

先進国の医療制度のすべてを理解しているわけではないが、わが国内で手に入る情報だけで判断しても、なりふりかまわない財政一辺倒の医療・介護政策を展開しているのは、大変非常識であると判断せざるをえないといえる。

政府も厚労省も、もう少し世界各国の政策や制度改革の現状を勉強して、国民本位、消費者保護、被保険者の権利優先、利用者本位、そして患者中心顧客主義といったことから医療と介護を再編するべきであると思う。その上での財政論であろう。

質の低下が怪訝される中で、質の確保を優先した高齢者医療および介護保険の政策展開を要請する。(19/1)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE