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老人医療NEWS第87号

在宅老人医療の再考

二〇〇六年の診療報酬・介護報酬同時改定のキーワードは、なんといっても「在宅」と「連携」であると思う。診療報酬上の在宅療養支援診療所と地域連携パスの新設点数、介護報酬の在宅中重度者への高い評価はその特色であるといえる。また、リハビリテーションの再評価は、急性期、回復期、維持期の流れを前提に、施設と在宅、医療と介護を包括的に、連続的にとらえ、地域ケアへの明確な視点を示した。

このように、病院と診療所の連携ということから、病診介護連携へと発展する基盤が提供されたと考えることができる。今後は、地域で実践可能な有効で網羅的システムをいかに構築するかが大きな課題となっている。

在宅ケアの中核となる在宅療養支援診療所は、既に一万か所を超え、さらに増加する傾向にある。地域医療という観点からも、在宅療養を推進するということからも、歓迎することができる。老人の専門医療の確立という立場からは、単に在宅ケアが進むという側面ばかりではなく、医療そのものが変容する可能性を含んでいるという点で注意深く吟味することも必要であろう。

在宅療養支援診療所の点数算定については、本年三月末の時点において「特定施設利用者への算定は不可」ということであった。その後の日本医師会の強力な巻き返しで、七月以降算定することが可能になったという経過がある。このことの衝撃は予想以上であった。流れは特定施設化に向かい、居住系介護保険サービスは医療のいわゆる外付け議論に発展した。

考えるまでもなく、特養も特定施設も医療は完全に外付けで、老健施設では一部が外付け、変な言い方だが、療養病床は病院なので、そもそも医療行為を行う場として、全ての医療が内付けというのであろうか。

介護療養型医療施設が廃止されれば、医療が完全に内付けの施設は介護保険サービスにはなくなる。老健施設の医療も特養と同様に外付けにすることはそれほど難しくない。もしこのようなことが可能になれば、グループホームや特定施設との共通点は多くなるはずである。

このことが在宅療養支援診療所設立の目的であったとは考えられないが、特定施設利用者への算定がこのような方向性を加速させることになったといってもよい。

このような流れは、あたかも必要必然であるかのように議論されるようになったが、われわれ医療人は、これまでどちらかというと入院医療を中心に考えすぎてきたのであろう。あまりにも低額な在宅医療に対する評価であったこともあり、在宅医療をメインとすることができなかったと言い訳することも可能だ。

しかし今後は、在宅療養支援診療所を中心に、高齢者の住む場と医療を追求していくことも必要である。ただし、高齢者に対する医療は、全て外付けというわけにもいかない。少なくとも老人の専門医療を基盤とした外付け医療が保障されることが重要である。つまり、低額でさえあれば質が低くても良いといった医療にならないようにすることが求められる。

その上で、今後の医療のあり方について真剣に考えなければならない状況になっていると思う。医師の中には、診療所の周辺に、高齢者住宅を多数建設するという方向を目指す方々がいる。逆に、療養病床を同一建物内で、特定施設と診療所に区分して対応しようとするケースもある。今後の選択が限られているとはいえ、組み合わせはいろいろである。

いずれにせよ、提供される医療や介護の質が問われることは明らかであり、再度、老人の専門医療を深く考えることが必要な時代になったことは確かであろう。

(18/11)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE