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老人医療NEWS第86号 |
厚生労働省の医療制度改革関連法成立前後のドタバタは、はっきりいって不安だ。直接の要因が財政の立直しにあり、政府の基本方針自体が社会保障の見直しに向かっているのであるから、いたしかたない部分もある。しかし、昨年九月の総選挙後の一年間を総括してみれば、厚労省の出遅れ、後手対応は明らかで、方針はあるのであろうが、中身が薄い。
後期高齢者の一部負担や高額療養費のアップは明確だが、現役なみの所得であれば三割というのは、今後介護保険に飛び火する危険がある。
平成二十年四月施行予定の後期高齢者に対する「高齢者医療制度」にいたっては、いったいどうするつもりなのであろう。まったく中味もなく、法案を創る前から成立できる可能性がないようにもみえる。
おまけに、療養病床再編については「患者が施設から追い出され介護難民の発生が心配」ということを公然と厚労省幹部が発言するにいたっては、「そんな不安があるならどうしてもっと慎重に進めないのか」といいたい。過去の例からみても、役人は絶対あやまらないし、なんと「結果はまずまずであった」と自画自賛することが常である。
ただし地域ケア整備指針構想の策定はスケジュール通り進んでいるらしい。なにしろ療養病床再編を踏まえた地域ケア体制の考え方や将来的ニーズを推計し、療養病床転換を進める指針とするというから驚きだ。
考えるまでもなく、後期高齢者はこれから急激に増加する。多分、在宅ケアを充実しても、一時的には施設不足という現象をさけることができない。だから、介護療養病床を廃止するものの、療養病床全体を他の施策に再編するといっているのであろう。その場合、厚労省の本音は、施設入所者を増加させたくないのであって、中重度者の在宅ケアに注力したいというものだ。そのための錦の御旗になるのが地域ケア指針であればきれいな絵がかける。
しかし、出だしはそうであっても、最終的には都道府県別に施設別の定員数の上限設定や、在宅ケア対象者の目標人数を設定するだけになる可能性がある。これは単なる憶測ではなく、二十年前の地域医療計画が、結果として病床開設制限を強権的に進めようとして、全国で駆け込み増床を誘発させ、その結果地域医療の混乱と、その後の病院大量倒産時代の幕明けとなった状況とあまりににている。
介護保険制度は、建前としてニーズを推定し、サービス提供量を介護保険事業計画で定め、それに基づき保険料を算定する仕組みになっており、サービス開始には要介護認定システムもある。この意味では、医療保険制度よりましで、地域医療計画ほどひどいことにはならないと考えているのであろう。
では、これまでの厚労省のニーズ推計はあたったためしがあるのか。人口推計、年金制度の設計、医療費推進をはじめ、ほとんど当らなかったいってもよい。国の経済計画でさえ実態と合ったためしがない。経済・社会は、生き物であり、机上論を根拠にコントロールしようとするのは、あまりにも幼稚ではないのか。
仮に、地域ケアのあり方を真剣に検討するのであれば、どのようなケアによって重度化が予防できるのかとか、在宅ケアの効果的技術で利用可能なものはなにか、逆に施設入所にならないための地域の医療、看護、リハビリテーションはどのようなものか、そして介護予防と病病予防の効果を証明できるのか、あるいは地域ケアを進めるための『地域』への働きかけは何が有効かといったことを科学的に研究すべきである。
地域ケア整備指針を『大本営発表の数合せ』にしてはならないし、単なる抑制策に終始してはならない。 (18/9)