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老人医療NEWS第85号 |
診療報酬・介護報酬同時改定の波は、ナース不足の嵐になりそうだ。急性期病院の七対一看護の新設で、大学病院や大規模急性期病院が来年に向けて大量に看護師の採用を計画していることが元凶だろう。
一〇〇床当たり五〇人のナースを七〇人に増加させるということは、四割増員ということになる。平均勤務年数を五年とすると、入替え要員が一〇人必要になる。こうなると来年は一〇〇床当たり三〇人採用ということになる。これまで二・五対一とかで、平均勤務年数が三年などという大学病院では、一〇〇〇床で五〇〇人の採用という事例すらあるという。
こんなこともあって全国の養成校には、日本中からリクルートのために病院職員が日参する。ナース急募の嵐だ。新卒だけで対応することは、だれの目にも困難であるため、「あらゆる手段でナースを集める」という強力な指示が急性期病院職員に投げつけられているという。
夏のボーナス後に「故郷に帰る」というナースがいる。話を聴いてみると「県立病院に勤める」とか「市立病院」という。われわれ民間病院から公立病院へナースが流れていく。数年前「老人看護をやりたい」「これからはリハビリテーション看護だ」「将来訪問看護師になりたい」といっていた新卒のナースたちが、今、故郷に帰るといい残し公立急性期病院に再就職することをとめることはできない。ただ、ただ残念だ。
療養病床も五対一から四対一へという流れがある。こちらも二割以上ナースの増員が必要になる。どこの療養病床もひとまず四対一をめざすので、このことからもナース不足が生じる。いってもしょうがないことなのであろうが、なぜこんな急激な変化を起こして混乱させてしまうのだろうか。厚生労働省は労働政策も担当しているはずで、官製市場で勝手きままな政策を展開されてはこまる。
わが国の看護労働市場が、国公立公的を中心として展開されてきたことは事実である。つまり、看護労働の主役は公務員労働ということになる。民間病院と公立病院の賃金格差は明らかにあるが、最近では民間の労働環境もかなり整備され、新卒五年目の比較では、賃金格差の幅は少なくなってきていると思う。ただ、民間病院は、新卒者より転職者が多く同一病院の勤務年数が比較的短かいことと、准看護師の比率がどうしても高いため、格差が大きくみえる。
公民格差ということでは、給与面で明らかであるものの、民間病院でも必要なナースはどうしても確保しなくてはならないので、給与面で改善する民間病院もではじめている。ナースの給与が改善できることは、いいことである。少なくとも公民格差を縮小する方向で対応したいが、多額の公的費用を無反省に投入している公立病院が、七対一をめざしてなりふりかまわずという姿勢は、どうしても疑問である。
わが国の急性期病院看護と比較的長期間の高齢者専門看護とは、かなり差がある。はっきりいってナースの差が高齢者ケアの差であるといってもよい。急性期看護はいそがしいし、医師の補助業務も多く、必ずしも看護の技が正当に評価されているとは思えない。高齢者ケアでは病棟の看護マネジャーが大きな権限を持つし、そのリーダーシップが重要である。心技体も知情意も全て発揮して高齢者ケアの質の向上をめざすことが使命である。
高齢者ケアの現場にいるナースは、医師ばかりか介護福祉士や臨床栄養士あるいはリハビリテーション職員とのチームケアが前提である。そのために教育研修が必要である。
我々が、今後とも一層、各種研修を進め高齢者専門看護を確立することが必要であると思う。(18/7)