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老人医療NEWS第84号

老年専門医の本格養成求む

今、医師の需給問題が議論されている。直接の問題は、産婦人科医や小児科医の不足で、マスコミに取り上げられる事も多くなった。ただ、医師数は増加しているにもかかわらず、医師不足は深刻だ。犯人は臨床研修医制度の義務化に伴う、医局講座制の崩壊が原因だと考えられているらしい。

医師にとって臨床研修をどこでおこなうかと言うことは、生涯を左右するかもしれない大きな判断である。細かいことはわからないが、卒業生は大学で臨床研修をするよりも、しっかりした急性期病院で研修することを望んでいる。その結果、大学に残る人が少なくなり、大学としては派遣先から医師を大学に呼びもどし講座を維持しようとするものの二年間入局者がいない講座さえある。

本当なのかどうか確かめようがないが、民間病院に大量に移籍しているとも考えられないし、多分、開業指向が強いのではないかと思う。医局で過重労働を強いられ、低賃金でポストもなく、世間が考えているような良い職業ではないと思う医師が多いことは事実であり、誰にとっても不幸だと思う。

今の医学生は、今流の若者であり、特別な人達だと考えてはいけないと思う。まして「我々が学生の時代は」などと言ったところで、何も解決しない。ただ、かっての我々がそうであったように、若者は将来とか、流行に敏感だし、ちゃっかり計算しているものだ。

おおざっぱに言えば小児科医は約一万五千人、産婦人科医は約一万人だ。このうち、女性医師は小児科で三割強、産婦人科で二割強だ。よく知られているように眼科医の三十八%、皮膚科医の三十七%は女性医師である。女性が相対的に多いことが問題だと言うつもりはないが、事実として医師という職業が身体的にハードな職業であり、これまでは男性優位の職業であったことは事実である。

小児科医不足と女性医師の割合が多いことが、どのように関連しているのかどうかは、良くわからない。ただ、小児科医の実人数も人口あたり人数も、そして小児一〇万あたり人数も増加している。逆に産婦人科は減少が著しいが、奇妙なことに年間出生数あたりの産婦人科医師数は不変と言ってもいい。

世の中には色々なことが起こるが、世間は需給関係が明確で、アダム・スミスが見通したように、神の見えざる手によって、市場は自律的に調整されるのであろう。

医師の需給の事をくだくだ書いてしまったが、実は将来の老年専門医に強い不安があるからだ。

わが国で専門医として、五百人程度の神経科医、七百人弱の小児外科医、そして七百強の心療内科医の先生達がいる。では、我々がめざしてきた老年専門医は何人いるのだろう。それ以前に重要なこととして、我々は、老年専門医の本格養成にどの程度貢献してきたのであろう。

多くの医学生の後輩に小児科医や産婦人科医をめざして欲しい。ただ、世界的に類をみない急激な高齢社会を体験せざるをえないこの国の医師として、老年専門医も選択の範囲に入れて欲しい。何よりも、患者さんの全身管理ができ、リハビリテーション科や老年精神科を学習し、地域医療のリーダーとして、そして何よりも老年専門医として地域社会に貢献して欲しい。

若者は将来に敏感で、ちゃっかり計算しているのであれば、老年専門医は重要な選択対象であるはずだ。それにもかかわらず、老年専門医をめざす医師が少ないというのであれば、そろそろ我々の手で本格養成を考えなければならない。 (18/5)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE