こぼれ話
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老人医療NEWS第90号 |
昨年八月末に全国老人デイ・ケア連絡協議会の海外研修旅行の行き先をオーストラリアからオランダ・ベルギーに変更した。我が国の高齢者ケアが直面する財政と社会保障の大きな課題を解決する糸口が見つかるとは思わなかったが、オランダの奇跡(ダッチモデル)といわれるEUのお荷物から優等生へのドラスティックな改革、特に医療・介護に取り組む姿勢や制度改革の全貌に触れることを期待した。
当法人にとっても、多くの宝物をもらったオーストラリアに加えて、法人の今後の取り組みに新たなスタイルを取り入れるチャンスと捉え、六名のスタッフと関連企業から三名が参加した。研修地にオランダ、そしてベルギーを選んだ理由がもう一つある。それは、「文化」である。オーストラリアでは味わえない歴史の深さを期待しての旅立ちとなった。
視察の中心となったオランダは、二〇〇六年一月から公的な医療保険はなくなり、すべて民間保険で医療が提供されている。具体的には、急性期病院、在宅医療、薬剤が医療保険で、日本の回復期リハや療養病床のサービスはLongTermCareInsurance(AWBZ:日本の介護保険サービスと類似)のナーシングホームから提供されている。介護認定に関しては、NeedAssessmentOrganization(CIZ)という組織が行っているが、ここではランク付けはせず、サービスの内容・量を決定する。AWBZでは、CIZの決定をチェックし、サービスプロバイダーと契約して、お金を分配するという方式である。
要介護度で悩む私たちにとって、その人に必要なサービスや内容をアセスメントしてサービスが提供される形態は非常に羨ましく感じられた。オーストラリアのACATとも通じる利用者のニーズを中心に展開される方式は、認定にかかわる財源や期間のことを考えると、日本でももう一度議論するべきことではないだろうか。
視察した施設の中で特に印象に残ったのは、ナイメーヘン市のナーシングホームを中心に「連携」に力を入れているDr. NorbertHendriksのChainCareProgramである。脳卒中とリハビリテーションに関して大学病院とナーシングホームの連携、ナーシングホームと家庭医の連携をパス等の手法だけではなく、「教育」に目を向けた実践的なプログラムである。紙面の関係で詳細を報告することはできないが、そこでは、家庭医のために脳卒中やリハビリテーションの専門的な知識を習得してもらうための援助をナーシングホーム(日本では回復期リハや療養病床)が提供していた。その内容は、オランダの脳卒中やリハビリテーションの現状から始まり、リハビリ専門職の役割、家庭医に求められる役割などの座学を含め、片麻痺の患者さんの装具有無の歩行を実際に見ながら、装具をつける意味を説明したり、一〇種類以上の車椅子とその適応の解説、さらに、片麻痺と高次脳機能障害の疑似体験として、鏡で見ながら利き手ではない手でパンにバターを塗る、パンをナイフで切るなどの動作を体験するなど、家庭医にとって貴重な学習の場をナーシングホームが提供していた。
家庭医のために「病院」が果たすべき役割を、@スムーズな入院治療、在宅医療への移行、A専門的な医療技術の提供、B専門的な知識習得の援助、C会議等にも活用できるスペースの提供と位置づけており、私たちの今後の活動にも非常に参考になる経験だった。自分たちの持っている機能を理解してもらう積極的な活動を行政や団体任せにせず、個々の病院が地域で展開している姿こそが「連携」の第一歩であることを再認識することができた。この取り組みを私たちの病院でも一部ではあるがすでにスタートさせている。 (19/5)