こぼれ話
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老人医療NEWS第89号 |
療養病床再編政策の柱であり、多くの問題点と欠陥を内包した「医療区分」、「ADL区分」の導入から約八ヶ月が経過した。
幸いにして当院は、医療療養病床のほぼ一〇〇%が、医療区分三および二の患者で占められてきた。財政面でも、本年一月の全診療報酬実績において、入院患者一人当たり平均単価の増加と外来、通所リハビリテーションの増収もあり、前年同月を上まわっている。医療療養病床は、三月一日から六床増床で、四一床(介護療養病床は六床減で計九〇床)となった。
病院は安定期に入ったようにみえるが、当然課題が存在する。現在筆者には、表題に書かれたような、いくつかの顔がある。管理職(経営陣の一員)と現場の医師という両方の立場に立つと、様々な視点から、問題点がみえてくる。
まず地域医療連携室の運営である。入院待機患者は計十五名で、大半は「要介護度五または四、しかし医療区分一」である。同様の紹介患者の増加と待機期間の長期化は、切実な問題である。介護難民の問題はすぐそこにある。そして今日も、病棟師長、MSWとともに、入院患者の優先順位や病棟間の移動患者の選定に頭を悩ませている。
病棟の変化も顕著である。筆者はまさに、「医療の質の確保と採算性の両立」を要求される立場にある。医療区分が少しでも高い患者を治療してゆかねばならない。個々の業務量は増加し、また患者の状態の変化に応じて毎日医療区分、ADL区分を確認して、診療報酬を算定してゆく作業があらたに加わっている。これは極めて煩雑で、非合理的な方法である。筆者も事務部、看護部とともに、診療内容、医療区分の確認と病名のチェックに、膨大な時間と労力を費やしてきた。診療報酬改定後も、医療保険療養病床のレセプト返戻は一件もない。この点は正当な評価がなされていると考えられ、苦労が報われている。現場での努力が具体的に数字で評価されているという実感は、むしろ以前より強い。しかし、医療療養病床にあって、包括医療と欠陥のある医療区分、そして限られたスタッフの中で、今後も医療の質と採算性を両立することは、必ずしも容易でない。
筆者は、今年で卒後二五年目の(元)外科医である。高齢者医療を志し、当院に着任後丸四年が経過した。この間、自分自身の業務は、実に多様化してきているが、医師である以上は現場が主戦場である。病棟では、中心静脈カテーテルの留置が増加した。やはり鎖骨下静脈穿刺は緊張する。補液、PEG、気管切開の管理、チューブ交換、外科疾患、皮膚疾患の処置も多い。肺炎、尿路感染、脱水のない日はない。診療内容はほとんど急性期病院と変わらない。そして老人医療の特殊性が加わる。高齢者は、合併疾患も家族背景も複雑である。終末期の対応では、一層質の向上が求められる。「DNR」といっても、病態は様々である。現在の医療療養病床は、まさに『急性期病院+α』で「αは限りなく大」である。会議、カンファランスの出席も増える一方である。
蛇足だが、計三校で看護学校の講義を担当している。最初は病理学全般と生理学の一部であったが、今年から、解剖生理学と成人健康障害論の分担が加わった。最近は、時期がくると必ず「国家試験対策」の補講も依頼される。いつのまにか、作成したスライドは千枚を超えた。時折、若い人(特に女性を想定)の前で話をすることは、一服の清涼剤になり、自分自身の勉強にもなる。全国学会の発表はまだ二回、講演や執筆の依頼も、できるだけ引き受けるようにしている。大きな充実感、満足感があり、色々な立場から、老人の専門医療に取り組むことが出来る境遇に感謝しているこの頃である。 (19/3)