こぼれ話
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老人医療NEWS第88号 |
昨年十一月に、ある高齢者福祉センターが「介護予防とリハビリテーション」という題で一時間三十分もの講演を私のような若輩者に機会を与えてくださった。正直九〇分間の講演など私には経験もなく、パワーポイントのスライド作成も大変であった。
今までのスライド作りは、医学に関して明るい専門職に対してのものであったので、ある程度画像は省略しても口頭で補うことができた。一般の方を対象にしたヘルパー養成講座の講義も経験があり、その際はテキストもあり困難はなかった。
しかし今回は対象が一般の高齢者で、スライドが必要である。題に示された「介護予防」「リハビリテーション」をいかにわかりやすく説明するか、特に「介護予防」には苦心した。現在、「介護予防」という言葉はある程度、国民に認知されてきていると思うが、では言葉で説明せよと言われると、さて困ったぞとなる。
「介護予防」という言葉は、介護保険で要介護の人が増えたため、財政的理由により、要介護にならないために予防しようとの考えからできた言葉である。以前よりあった言葉ではなく、しかも国が作った言葉であると認識している。スライド内で「介護予防」という言葉を私の認識のまま伝えることもできず、「介護」と「予防」に分ける苦肉の策で乗り切った。
講演には約三〇枚のスライドを作成し、少しゆっくり話をして、質問に対して多めに時間をさこうという思惑でいたが、実際は会場に来られた多くの方の真剣な表情に私の気持ちが入ってしまい、いろいろ説明しているうちに九〇分があっという間に過ぎてしまった。それだけ高齢者の方が自分自身の健康に対して真剣であるのだと感じた。
現在「介護予防」はきちんと行われて効果がでているのであろうか。まだ事業が始まって間がないため、効果を求めるには酷というものかもしれない。しかし、介護予防事業を行っている事業所の理念・理想という部分にばらつきがあり、事業内容のチェックも全てには行われていないため、あまり効果が出てこないのではないかと不安になる。
不安といえばもう一つある。当院は特定高齢者に対する研究事業を委託されているが、今まで特定高齢者という範疇にはいる高齢者を殆ど見たことがない。そのため研究は全く進んでいない。要支援状態にならないための予防事業であるが有名無実となっている。
医療・福祉系では特定高齢者がどのような人を指すのか知っている人もいると思う。あえて「知っている人もいる」と言わせていただく。なぜか。あまりにも一般に特定高齢者という言葉が理解されておらず普及していないため、提供側も本気になれず知ろうとしないのである。地域差はあると思うが、特定高齢者の認定には地域包括支援センターが関与している。しかし、要支援の利用者のケアプラン作成に精一杯で特定高齢者に手が回っていないのが現状である。また基本健康診査さえ受けてもらえないのが実状と聞いている。
制度を作ってもあまり利用されなければ意味がない。考え方に異存はないが、どうも制度を本気で利用してもらおうという感じがない。とりあえずやっているという感じにしか見えない。ただ、私たちも健康寿命を延ばすために手を貸すことは大切で、指をくわえて特定高齢者が認定されることを待っているだけで良いのだろうか。
このようなことを書くと、「おっ、ここにおいしい物が転がっているぞ」と飛びつく者がいるかもしれない。しかし、私は良識のあるものが協力しながら実行し、「介護予防」「特定高齢者」、どちらの制度も結果を出し実を結ぶことを願っている。(19/1)