現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第89号
−なぜ胃ろうか、その是非・注意点を巡って−
鶴巻温泉病院 院長 藤田力也
鶴巻温泉病院 副院長 江上格

自分で「食べる」ことができるのを最高として、「介助して食べさせる」から「チューブ栄養」さらには「中心静脈栄養」まで、「食」と栄養は病人にとっても病院にとっても大きな問題である。療養病床では胃ろう(PEGペグ)を利用しているところが増加している。栄養ルートとして腸管を利用するので免疫機能が保持できること、栄養バランスが良いこと等利点も多いが、入れ替えの時点でアクシデントが多いことはよく知られている。最近では在宅療養で家族がそのアシスタントを務めるとなると派生する合併症が多いのも事実である。

当院は五九六床の病院であるが、常食を摂取できる患者は約二五%にすぎず、三〇%未満がきざみ食を含めた軟菜食である。経管栄養はなんと四五%に達している。当院でも胃ろう、腸ろう、経皮経食道胃ろう、経鼻胃チューブによる投与法が行われているが、ペグによるものが最も多く七五%、約二〇〇名で、胃チューブそのほかは二五%である。病棟別にみると、重症度が高い医療病棟で七二%前後と最も多く、介護病棟で三七%、回復期病棟では二九%であった。

ペグの作成は他病院にお願いしているので、当院では適応までのICだけをとれば良く、費用面でも持ち出しがなく助かっている。ペグは作成時期と作成病院の違いによってバルーン型、バンパー型が混在しているが、それぞれにタイプによって特徴と欠点がある。たとえばバルーンでは注入水が少なくなると脱落しやすくなる。そのほか、自己抜去も多い。脱落に伴う入れ替え事故をはじめ、スキンケアは清拭やガーゼ不用といっても何かと問題は少なくない。肉芽の焼灼も硝酸銀棒が入手困難で苦労している。逆流性食道炎や嚥下性肺炎などの問題もある。入れ替えを安全確実に行うには内視鏡を併用するかレントゲン撮影がよいがベッドサイドで行うと意外に難しい。空気や注入水の音を聴診器で聞くのは不確実で、腹腔内に入っても識別困難である。ペグ交換は一ないし三ヶ月とされている。理想的には内視鏡による方法がよかろうと思うが二〇〇名もいれば現実的ではない。腹腔内に誤挿入するよりは、まずは一晩待ってなれたスタッフに任せるのが安全である。

栄養管理の面から見るとペグ群では、経口群よりも血清アルブミンがよく保たれている。体重も経口群でより低い。だから栄養管理にペグは欠かせないと思う。使用する栄養剤は薬価収載されたものを使用しているが、セット加算がないものもあるので注意が必要であろう。

また、大部分は一ミリリットルあたり一キロカロリー以上の高濃度食品を使用しているので保険適応外であり食料費として負担をお願いしているのが現状である。反対に在宅の場合は保険薬価収載されたものをなるべく使用する方が良かろうと思うが、実際には保険適応品は種類が多くないので、そのあたりも制度上の矛盾を感じている。

注入水の追加を行うのに介護福祉士等が介助し、点滴速度を調整すると違法医療行為とされる場合があるので注意が必要である。濃厚栄養剤の点滴速度と注入水の速度は当然異なるので調整が必要、実情を知らない医療行政担当者には理解できないのかもしれない。小さいことであるが負の波及効果は大きい。(19/3)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE