現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第87号
再び寝たきりにしないための工夫−森林療法のすすめ−
総泉病院院長 高野喜久雄

病室にとじこめない、家にとじこめないことが大事ですと言われて久しいのですが、いろいろな理由から外へ出さないことが最近出てまいりました。外へ出ると風邪をひく、そして肺炎が怖いという家族がいること。病棟では恥ずかしながら食事介助、排泄介助、入浴介助といった三大労務で手一杯で時間がないということを声高に言うスタッフ。その他にも理由はあるでしょうが、主な理由は、大体こんなところでしょう。

また、最近は医療区分の重い方が多くなってきているとか、介護度が高くなってきている点も関係しているかも知れません。二〇年位前の「寝たきり」という言葉が今またやってきた感がします。

その頃「起きないと寝たきりになりますよ」と患者さまに言うと、「起きたって何も楽しいことがない」と言われた事を思い出します。そこで当時、色々なイベントを考えねばならないということになりました。カラオケ療法などは音楽療法のきっかけになりましたし、誕生会やバーベキュー大会なども行われるようになりました。

さて、私は三年程前から千葉県の森林療法プロジェクトに関係しております。森林療法という言葉より森林浴という言葉の方が今では一般化しているかも知れません。

森へ入ると気分爽快になります。それはフィトンチットという物質が私達の身体に作用するためだと説明されております。森に入ると香りが漂っていることを感ずると思いますが、これがフィトンチットの香りです。ロシア語でフィトンは植物を現し、チッドは殺すを意味します。この成分は一般的にはテルペン類が入っています。一寸前まで話題となったマイナスイオンが絡んでいるかも知れません。

●森林へ行ってみたら

本院の裏には約二千坪の庭があり、半分は杉・ヒノキの林になっています。この森林へ患者様をお連れして、どんな変化が出るかを検証しました。

一回四〇分程度で十二回、認知症の方々にプログラムに参加していただきました。結果は良く眠れるという今まで言われていること以外に、運動や認知的な点を森林療法の実施前後でチェックしました。その結果、知的興味のアップが認められました。

また、森のにおいということで、輪切りにした切り株や木のクズを刺激材料として用います。プログラムの終わりには、この木を持って病棟の同じ部屋の皆に見せるという方も多くなりました。社会的関係が出てきたと思います。

それから、竹を半分に割って水を通し、笹舟を流すこともしてみました。この時、笹舟に赤い花を乗せるときれいだねと、工夫もみられるようになってまいりました。

高齢男性の方では、病棟では受身的というより何もしない方が、焚き火をした際、小枝を拾って火にくべたりして、奥様がびっくりされていました。

この方にはエピソードがあります。プログラムの最後に、私達より早めに病棟へ帰られましたが、途中で戻って来られ、小さな声でどうもありがとうございますと、丁寧に言われたのです。焚き火を通して物理的な暖かさだけでなく、精神的な暖かさのコミュニケーションのひと時でした。

今後は近くの里山へと足を伸ばすことも考えている、今日この頃でございます。

(18/11)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE