現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第86号
品性と風格
釧路北病院理事長 豊増省三

本誌八十三号オピニオン欄に「老人専門医療への期待」を寄稿された社会医療研究所岡田玲一郎氏が発行している「社会医療ニュース」を毎月読み、氏の鋭く先見性に富んだご意見を、私の進路を探る羅針盤の一つにさせていただいている。

岡田氏には平成五年に、療養型移行へのシミュレーションというセミナーによばれたときに初めてお会いしたが、そのとき、「私の医療は私に決めさせて下さい」というLMD運動を知り感銘を受けた。

翌年の平成六年、岡田氏の主催するセミナーで、彼は「高齢者も障害者もこれからは住の時代、工場誘致などより在宅医療の促進が地域振興に貢献する」と話されていたが、十数年前に既に今日の状況を見通しておられる。

またそのとき、「病院には品性と風格が必要」と首都圏の二つの私鉄の対照例を挙げて、品性と風格の大切さを説き、「先進国でも通用する病院、人類に相応しい病院を」と熱く語っておられた。

この話に触発されて、品性と風格のある老人医療を目指そうと決心した。取り敢えず院内あちこち、職員の目につくところに「品性と風格」と記した色紙を飾った。間もなく職員の合言葉となり、たまに私が悪い冗談を言うと、「先生!、品性と風格!」と叱られる。あっ、そうそうご免なさいと苦笑して謝る。

地域社会の人たちが私たちの病院に品性と風格を見る日は訪れるのだろうか。何を心がけ、どんなことを実行すればそれに近づくことが出来るのか。

療養病棟には一般病棟とは違った良い雰囲気がある。それは高邁な権威に裏付けられた恐れ多いものではなく、心を和ませる安らぎの雰囲気である。これが療養病棟の品性と風格を形作る基本的な要素だろう。

ケアプランは老人介護を実践する上で重要なものだが、それ以上に大切なことは、心身の弱った老人に出会ったとき、その状態を我がこととして看護(介護)をするという心構えであろう。それを具現化するのに「和顔愛語」は欠かせない。和顔愛語のないケアに品性はない。

今回の診療報酬改定の影響は甚大で、全床療養病棟の当院は存亡の瀬戸際にある。しかし、行き場のない人を強硬に退院させるようなことは品性上許されない。かと言って、経営を破綻させる訳にはいかない。

ところで、介護難民の発生などないと国からのご託宣である。難民がでたとすれば老健施設に転換せずに潰れた病院の責任ということになるのだろうか。だが、新築したばかりの当院を老健施設に転換した場合、介護報酬で建築資金の償還と利払いを行うのは不可能である。

財政難は十分に理解しているつもりで、協力は惜しまないが、それにつけても医療区分1で植物人間状態の人を見ると心が痛む。

性急、拙速な改定の煽りで、生き残りをかけた懸命の模索が始まる。奇麗ごとで済まされず、なりふり構わない修羅場があるかも知れない。

けれども、この厳しい現実の中でもなお、「品性と風格」を貫く老人医療でなければ、病院存続の意義も自分の存在価値も霞んでしまう。 (18/9)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE