現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第85号 |
入院患者さんにリハはやらない?
先日、地域のある会合で某病院理事長の次のような発言を聞いた。「うちはリハを充実させてきたが、今回の診療報酬改定で割が合わなくなった。今後リハは外来のみにすることにした」
それを聞いて「えっ、待てよ。少しおかしくないか。それでは今までやってきたことは一体何だったんだ。入院患者さんに必要だったからやってきたんじゃないのか。患者さんが入れ替わった訳ではないのだから、続けなけれりゃいけないんじゃないの」と言いたくなった。
金勘定で診療を変えてはいけない
それまで適応の人にリハをやっていて、以降同じ適応の人にやらないのなら、以前が正しくて以降が間違っている。逆であれば、以前が間違っていて以降が正しい、と言うことになる。診療報酬の改定によって診療内容をコロコロ変える経営者はけしからんと言うのが感想であった。
経営者の腹の中を憶測する
しかし、経営者の立場から考えれば、霞を喰って生きていくことはできない。職員の給料を払うためには収入につながることをしなければならない。医の倫理も営利は否定しているが、この程度は許されるだろう。
次のようなこじつけで診療内容変更の正当化が可能かもしれない。診療報酬体系の変更があった訳だから、リハが適応から適応外に変わったと厚生労働省が判断した。だから以前も正しいし以降も正しい。
なるほど、これまでも有用とされていた薬剤が、検証の結果有用性を否定され、ある時点から薬価収載から外された例もある。我々には良く分からないことが多く、それまで正しいとされていたことが、後に間違いと分かることも多々見てきた。しかし、きちんとした根拠があって初めてそのような転換は可能となる。
患者さんに説明できない
今回のリハの有用性否定はきちんと検証された訳ではなかろう。我々は患者さんやご家族に「リハは昨日までは有用と考えられていましたが、今日から有用でないことが分かったのでやらないことになりました」と、どの面下げて言えるであろうか。それでは患者さんの信頼は得られない。
医の倫理にも反する
「医師は医療を受ける人びとの人格を尊重し、やさしい心で接するとともに、医療内容についてよく説明し、信頼を得るように努める」(日医の「医の倫理綱領」三項)には明らかに反するであろう。
医の倫理に反し、人々の支持を得られない医療機関には「某理事長さん、そんな医療しかできないのであれば、あなたは医業から手を引いて、退場しなさい」と言われることになろう。これは神定の意見ではなく、世間の声である。
時代は我々にとって、どんどん厳しくなっていく。毎日の判断を厳しくしないと、自分が退場勧告される立場になりかねない。(18/7)