現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第84号 |
平成十五年・十六年の二年間、三十九床の「個室・ユニット」の中で、年に十二名の方をみおくった。癌を患いペインコントロールを必要とする患者さんの最期も看取ることができた。十五年に看取った十二名の方は、半数近くの方が一ヶ月以上の点滴による補液を行っていた。ところが、十六年には「口から食べられなくなったら終わりだ」という考えの下に、経口摂取の見直しを図ることで、長期に点滴を行った利用者は激減した。
平成十七年十月の介護保険の改定で、栄養ケアマネジメント加算が導入された。当院では、医師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士、理学療法士等のスタッフが、栄養ケアサポートチームを組み、栄養、全身状態の改善を目指しながら、生活の質を向上させていく試みをしている。嚥下内視鏡で、嚥下機能を評価し、経管栄養から経口栄養摂取に向けてのサポートもしている。実際に、リハビリ専門の病院で見放されて、当院に転院してきた方が、七ヶ月足らずの間に、経管栄養から自力での食事が可能になっただけでなく、体力も向上し歩行訓練を受けることができるようになっている。他の介護施設と異なり、多様な職種がチームで関わり、「個室・ユニット」で、スタッフをユニットに固定し、利用者と馴染みの関係を築くことで、情報を共有し、些細な変化をつかむことが出来た結果と考えている。
昨年十二月に突如として原則介護療養型医療施設の六年後の廃止が発表された。驚いたことに約九割の患者が一般病床で最期の時を迎え、約八割の利用者は週一回以下の診療しかうけていないという。これでは施設に医師は必要ないといわれても仕方がないと思われる。「個室・ユニット」の中での看とりが増えてくるにつれ、重症者ほど必要性を強く感じていた我々にとって本当に意外であった。「個室・ユニット」になることで、「生活の場」の中での看とりが実現し、家族は最期の時を、自宅にいるかのような感覚で迎えることが出来るようになった。家族を支援することもスタッフの役割の一つとなり、その関わりの重要さも学んでいった。家族もスタッフのケアに励ましの言葉をかけてくださるようになり、互いに利用者を支える体制ができてきた。そしてお互いの信頼の中で、必要な医療のみを提供した結果が点滴の激減に繋がったのである。「個室・ユニット」は外山義先生が言われていた「自宅でない在宅」である。
「施設」から「在宅」へのこれまでの大きな流れは、ひとつにはお金にあった。しかし今回の改正で、要介護五の利用者の場合、在宅での介護保険の利用限度額は三十五万八千円であるのに対し、介護療養型の「個室・ユニット」では医療を包括しても約三十九万七千五百円である。「個室・ユニット」の中で行っている医療、看護、介護を個別に合算すれば、六十万から百万になる。一人暮らしの重介護者にとっては、施設が絶対に必要であり、また、住居費、食事代を給付外としたことにより「施設」と「在宅」との間には大きな差は見られない。「在宅」が多様化する中で、「施設」と「在宅」を分けることの意味は希薄になったのではなかろうか。会員の中に、「新型特養」と同じ療養環境をもった「自宅でない在宅」の「施設」が増えることを願っている。 (18/5)