こぼれ話
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老人医療NEWS第85号 |
臨床心理士はクライアントの抱えている心理的不安・問題などに対し、心理検査やカウンセリングなどを行う心の専門家で、文部科学省認定の民間資格である。四年間大学で心理学を専攻した後、日本臨床心理士認定協会の指定する大学院修士課程を修了したものが受験資格を得る。
現在日本では、約一万五千人の臨床心理士がいるとされ、その主な活躍の現場は、医療・教育領域である。医療現場においては心理検査や心理療法、教育現場では心理教育などを行っている。
保険診療としては、精神科で心理・精神検査が診療報酬に収載されているのみで心理カウンセリングなどは、保険診療と認められていない。そのため、臨床心理士は病院などでは見る機会が少なく、大学病院の精神科などで見かける程度である。
私はこの臨床心理士の存在を知り、当院への導入を検討するため、臨床心理学の大学に足を運んだ。何人かの教授から、実際の臨床心理士の役割、実績、活動等を教えていただき、病院でのその必要性を強く感じたため、平成十六年四月から一人の臨床心理士に赴任してもらった。
赴任当初は障害受容やせん妄状態改善に向けての個人心理療法から手をつけてもらった。私自身、臨床心理士に会ったことがなかったし、臨床心理士も病院での勤務経験はなかった。病院スタッフもはじめは大きくとまどっていた。
しかし、患者様のニーズは驚くほど大きく、日々の身体のケアに追われている看護師や単位の消化に追われているリハスタッフが、その存在を知るにつれ、必要性が理解されてきた。
その後、イメージ療法やアートセラピーなどの集団心理療法にも手を広げ始め、さらにご家族へのアプローチも開始した。
だんだんと臨床心理士の存在が病院で大きくなると患者様たちに変化が起こった。眠剤の使用量が減り、夜間のナースコールが少なくなった。泣いていた患者様が笑うようになった。自分から進んで臨床心理室のドアをたたく患者様が増えてきた。たった二年間で、病院での臨床心理士の仕事は膨大なものになり今年の四月からもう一名補充し、現在は二名体制で行っている。
医療の中でも、ことリハビリにおいては、患者様のモチベーションの高さがプログラムの進歩に大きく左右する。脳血管疾患などで治ることのない障害を受けた患者様の喪失感・絶望感は想像にしがたいものであり、そこから残存機能の補完に向けてリハビリに対して前向きになるまでは相当のエネルギーが必要であることは間違いない。
また、認知症に対しても、その個人の生き方を踏まえた上での継続的なかかわりをしていくことで、混乱を落ち着かせ、心理的な安心感を取り戻すことができる。しかし、その心理面でのサポートの多くは、医師・看護師などが片手間に行っているのが現状ではないだろうか。
今回の病院経営を根底から揺るがす保険改正で、療養病棟での要医療度が激増することになる。医療・看護はますますその病態・病状管理に集中するようになり、ますます患者様の「こころ」は置き去りにされる危惧がある。
そのミッシングピースが病院での臨床心理士ではないかと感じている。経営的には収入の期待できない人件費となるが、患者様・ご家族への認知が高まれば、心までもケアする病院として周知されるようになり、おつりのくる効果ではないかと、都合よく考えている。
今後、医療現場での臨床心理士の活躍が楽しみでならない。 (18/7)