こぼれ話

老人医療NEWS第84号

お金になる? ならない? 損か得か?
南小樽病院病院長 大川博樹

介護保険病棟のカルテを見ていたら、「尿中Bence Jones蛋白・・」の検査指示。診断のための検査と知り、担当医に「それなら血清蛋白免疫電気泳動じゃないの?」「検査代高くつくのじゃないかと思って・・・」

老人医療に最近携わり始めた友人医師のつぶやき「定額報酬からいろいろなコストを引き算したら、一人一日千円ぐらいしか薬剤費用にならない。」さらに「中心静脈栄養のコストなんかどうやってだすの?」

当院のインフルエンザワクチンの料金が噂によると、市内で一、二の安さらしい。なにも原価割れしているわけではない。多くの患者様に接種してほしい気持ちの表れと地域サービスの一環。でも、自由価格の設定というのは誘惑だ。保険診療の枠を外れると、「そろばん」のはじき方が上達するのかもしれない。

小樽にもやっと春が来た。それにしても、この冬は寒さも雪も厳しかった。一晩に三〇センチ以上もの降雪。通所リハビリのスタッフは車にプラスチックのそりを積み込む。玄関から車までは車椅子が使えるはずもなく、「おんぶ」、それでも遠い時には「そり」。スタッフも利用者様たちも病院に到着すると、ほっとするやら疲れきっているやら。送迎時間も通常の倍かかることもある。四月からはこの送迎加算も廃止とのこと。

病院の駐車場にも雪は積もる。重油ボイラーで不凍液を舗装の下のパイプに回す、いわゆるロードヒーティング。患者様サービスだ。追い討ちをかけるように、この冬の原油代の高騰で、重油代も単価が一・五倍を超えた。寒さで暖房も全開、重油使用量も過去最高。

ロビーコンサートが六〇回を超えた。プロのエンタテインメントが原則。素人芸を患者様に提供するのは、失礼との思いから始めた。でも、ライブの音は心にしみる。ジャズトランペットの伴奏で「ふるさと」を歌っている患者様をみると、今後も続けようと思う。もちろん、プロだから、ギャラは発生。エンタテインメントは道楽なんですね。

通所リハはゲーム会社「ナムコ」プロデュース。「妖精の森」というコンセプト。ゲーム機を活用したリハ。リハビリエンタテインメントと呼ばれている(らしい)その支払いも今年でやっと終わる。支払原資は介護保険ではもちろん担保されない。でも、「モグラたたき」で息を切らしている利用者様を見るとうれしくなる。

通所リハの三時から三〜四〇分間はカラオケの時間。スタッフのあまりにへたくそな歌が耳に入り、自ら臨時歌手に。「青い山脈」「北国の春」「北の漁場」は定番。カラオケ機器は、大手カラオケメーカーから購入したスナックにあるような本格マシン。歌もそうだが、テレビ画面の画像が昔の映画。最近は副院長、事務の役職者たちも参加してくれる。

「診療報酬」だけで病院経営を割り切ると、「お金」にならないことが切り捨てられていく気がするのは私だけだろうか。診療報酬改定のたびに、このコストは取れる、取れないで右往左往する。しかし目の前の患者様は必要なことを求めている。

私が「老人の専門医療を考える会」の幹事会に参加させていただいて三年目になる。老人医療に、あふれる情熱とこれ以上ない真摯な気持ちで取り組んでおられる諸先生の発言を聞きたくて足を向ける。「良質な老人医療を提供しよう」という日本を代表するような老人医療の先生方の発言からは「目先の報酬」より、逆に「報酬がついてくるような医療」を先駆けて行おうとする先進の心意気がうかがえる。

いい医療・いいサービスを提供してゆけば、きっと報われる。これこそ報酬という言葉の真の意味。信念を持ってこれからのダウンサイジングの老人医療の世界を前向きに生き延びて行きたいものだと考える毎日です。(18/5)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE