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老人医療NEWS第81号

ケアの自由な競争を

厚労省の医療構造改革推進本部は、十二月二十一日「療養病床の将来像について」との文章を公表した。

内容は、療養病床の再編を進め、医療必要度の高い患者を対象とする施設として位置付け、人員体制のあり方について検討するものである。

介護保険の療養病床は、医療保険の療養病床や老健施設あるいは特定施設(有料老人ホームやケアハウス)への転換を念願に置いた経過的類型を一定期限設け介護報酬の評価を行うものの、平成二十四年度以降、介護療養病床への介護報酬を廃止するものとしているのである。

このことについて、会員各位のとらえ方や感じ方は必ずしも同一ではないが、思い切った制度改革であるという点については一致している。考えてみると、介護保険制度の立案段階では、療養病床のほとんどが介護保険施設に移行してくれということを当局から要請された。しかし、その前後の在院日数短縮化政策の強化は、必然的に療養病床の急増という結果となった。そして、介護保険制度実施の直前になって「保険料が高くなり過ぎるので、介護保険でも医療保険でも好きなほうにいってくれ」といわれた。そこで、介護保険で対応しようとして県に書類を提出したら「先生のところは医療と介護を半分ずつにしてくれ」というようなことがあった。

そして五年目になったら「これから介護療養病床を廃止するので、医療保険にもどるか、それとも老健施設か、特定施設になってくれ」と言われているわけだ。よく考えてみるとこんなストーリーで、今更ながら腹立たしい。

一番の問題は、医療療養病床になったとしても、訳の分からない医療必要度で、必要度が低いものは排除しようとしている。結局、わが国の病床数を少なくして、医療費を安くするための一手段になっているように思う。また、十年前のRUGVを変形して、なぜこんなことに悪用されるのであろうか。MDSもRUGも開発に協力してきたのは本会であり、アセスメント方式としてはよいものの、医療費支払い方式としては、活用できないとしたのも本会である。

なにも歴史を知らない人々は、まったく新しい仕組みだと考えるかもしれないが、今回の医療必要度が老人の専門医療の向上に寄与する部分より、無理やり医療必要度を高める算術病院がまた生まれる危険があるように思えてならない。

われわれは、老人の専門医療の質の向上のために二十年以上の実績がある。あらゆる調査、学習、研修、研究を通じて、さらに一般の人々とともに高齢者の医療の質についてシンポジウムを開催してきた。それが療養病床は、一部を除き病院という医療の場から追い出すというのはいかがなものであろう。ただ、なんの専門技術の向上もなくケアの質の確保にも努力してこなかった療養病床の末路だと言われれば、その通りの病院があることをわれわれも知っている。

天本元会長は「地域ケアの中核となる病院であり、かつケアリビングのひとつとしての老人専門病院と地域ケアの環境」をコツコツと創り続けてこられた。大塚前会長は「大往生の創造を理念に、高度なケアと医療が付いた有料老人ホームを目指してきた」と述べておられる。会員各位もそれぞれであるが、この二十年間を振り返ってみると、それぞれの理想は、ある程度達成できたと考えている。

今後も、厚労省の考える方向と、われわれの進む方向は別になるかもしれないが、老人の専門医療の確立と質の向上のため邁進したい。

なにも悲観的になる必要はないし、本物だけが生き残っていくのであるから、自由にケアの質を競争させるという本会の主張は不変だ。(17/11)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE