こぼれ話

老人医療NEWS第81号

平成17年度ヨーロッパ研修
財団法人仁風会理事長 清水紘

本年九月五日から十四日まで当会の第九回目となる海外視察に参加して来た。ミュンヘン、ザルツブルグ、パリの三都市を訪れ、老人ホーム、ケアホーム、病院など合わせて五ヶ所を訪問した。参加者は平井基陽会長以下総勢十三名である。個々の施設についての詳細は紙面に限りもあるので省略するが「こぼれ話」というタイトルが付いているので、旅行中に気付いた事や、日本との違いなどについて述べてみる。

今回の訪問先は低所得者が多い地域の老人ホーム、郊外の老人ホーム、富裕層を対象とした認知症専用ケアホーム、街中にある地域と連携した老人ホーム、長期療養型の病院という構成で、いずれも認知症に力を注いでいた。日本と同様に認知症の対策には大童のようである。

どの施設でもゆったりとした造り、広い廊下巾、照明は間接照明が多く、日本の明るさを主眼とした直接照明とは違った印象を受けた。高齢者には照度が足りないのではないかと思ったが、バリアフリー化や原色に近い色を使うことにより補完しているのではとの印象を受けた。また、ある施設では各フロアにあふれる程の観葉植物が生い茂り、私などはすぐに維持費が心配になった。

食事についても入所者、職員、家族等のいずれもが利用できる食堂や喫茶室、また晴れた日には庭やテラスでの食事が可能なところも多く、敷地が広いのがうらやましかった。ただミュンヘンの施設で出していただいた昼食のお味は不評であった。

外国の施設では当然であるが、入所者は日中、普段着で過ごし、ユニホームやパジャマ姿はいない。部屋は個室が大半、私物の家具など日本ではすでによく知られていることである。ある認知症の施設でオムツの事を尋ねたところ、たまたまそこにいた十名程の入所者全てがオムツをしているとの返事には驚いた。いわゆる便臭はどの施設でも感じなかった。個室のせいかもしれないが、やればできるものである。

最近は日本でも増えつつあるが、子供との触れあいを重視している施設が多いのも印象的であった。施設内保育(これは職員のみならず近隣の子供も預かっているそうだ)や居室から隣の保育所の運動場が見えるなどの工夫がされていた。子供たちとのイベントも多くあるようだ。

犬好きの私としてうらやましかったのは,犬を連れての面会もOKで本物のジャーマンシェパードがお茶を飲んでいる飼主の足元で静かにしている光景が忘れられない。介助犬のみならず、飼犬も立派な家族であると私は考えている。レストランでも電車やバスでもヨーロッパでは平気で犬がいる。犬は吠えない、咬まないという前提があるからこそ成り立つことである。アニマルセラピーではなく、よくしつけられた犬なら自由に連れてきてもよい病院にしたい。ところでファッションの街のパリに犬の落し物が多いのは何故だろうか。法律で規制されており昔より随分減ったと人は言うが、まだまだ注意して歩かないと危ない。

最後に訪れた病院は急性期から慢性期の病院へ再編したばかり。まだ試行錯誤の状態にあるように感じたが、医師と看護師の意見の食い違いが我々の目の前で展開され、いずこも同じとおもしろかった。この看護部長は近々別の病院の立ち上げの為に退職するといっていたが、こういう機関車的な人がいないと話が進まないのは日本も同じである。

弱者である高齢者が自分の最期をどのようにして決めるのか、今回訪問した国々ではどこも金次第という感がしてならなかった。今後の日本もその方向付けがなされているのではないか。フランスにおける暴動のニュースを聞きながらそのような事をおもった。(17/11)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE