現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第79号
適切な老人医療とは
わかくさ竜間リハビリテーション病院理事 三田道雄

今年三月三十一日付で院長を退任し、自分自身を振り返る昨今となる。現役外科医時代は、腹部外科を主体としながらも、乳腺、甲状腺、卵巣等の腫瘍外科や整形、形成外科分野、唾石、ガマ腫摘出といった口腔外科領域にも手を伸ばしていた。当然、患者さんには高齢者が多数居られた。

現在深刻な問題として議論されている老人医療費の膨大化は、昭和四十年代に始まっていた。都知事が行った老人医療費無料化に端を発していると考えられる。私はその当時、公立病院勤務であったため、経営と無関係に働けたのは幸いであった。当時、ゾロ薬品を使用する病院は良質な医療提供をしていないと評価されていたが、お金は世の中を変えるもので、今はジェネリックとして推奨されている。

さて、厚労省は、高齢者の心身の特性を踏まえた適切な医療の提供等をすすめているが、その具体的提言はない。当会が医学的見地からだけでなく、心理、宗教、民族性等を加味して検討すべきである。また、患者本人の選択権も主張されているが、色々な情報が提供されるだけで、本人が納得できる選択権の行使可能な環境整備が整っているだろうか。所詮、医者のお勧め商品を買う事となる。医者はいかに多くの商品を持つかであり、セカンドオピニオンの提供に積極的になる必要がある。

最新、最先端の医療機器が開発され色々な疾病病態の情報が得られるようになったが、医療成果にどれだけ繋がっているだろうか。高齢者の手術依頼を出しても、手術はできないと戻ってくる。理由は高齢者だからである。

私の母が胃癌で逝った時、胸部レントゲンで肺転移のある事は認められていたが、気管支鏡、CT、MRI等の検査が行われた。私は医者であることを告げていなかったので色々と説明頂いたが、結局手術はできなかった。患者にとって、それまでの検査は何の役に立ったのか。気管支鏡は辛い検査であっただろうと後悔している。内科医ならば十分に役立つ情報かもしれないが、古典的外科医の私にとっては今のような検査機器のない時代にいろいろな手術を無事できた事は空恐ろしい気もすると共に、検査検査の現在に違和感がある。できる検査、治療をすべて行う事が最善の医療か、医学的見地のみ優先させる事が最善なのか。高齢者医療においては教科書的単純な考え方は不適切と考えている。

竹中郁夫氏の連載記事に興味あるものがあった。それは、医療技術が進歩すれば成功した場合の果実は豊だが暗転すればダメージも大きい、医原性事故死の患者数は日本で年間二万から五万人いると推測されるとある。年間の死亡者の内、かなりの割合が医療を受けなかった方が長生きできたと想像できる。また、医者のストライキ中に死亡率が低下した例も述べている。コロンビアで三五%、米国で一八%、イスラエルで半減との事である。つまり国や地域を問わず同様の現象がみられる。これらの事からも医者が過剰もしくは不適切な治療を行っているのではないかと想像される。当会でも高齢者の適切な医療についてもっと議論を進めたい。 (17/7)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE