現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第78号 |
近年医療界は変革の時代に入っている。かつては、病院が努力せずとも患者様は来院され、病床稼働率が高い時代もあった。しかし、病院、病床が増加し、日本経済が傾きはじめた頃から、患者様が自分で病院を選ぶ意識が高まり、病院の経営努力が不可欠となった。急性期病院では治療実績等のクリニカルインディケーター(CI)を公表するようになり、患者様から選ばれる病院作りに力を注いでいる。
一方、慢性期病院に対する患者様の目も自己負担額増加にともない、一層厳しくなることが予想される。今後、慢性期病院においても患者様に選ばれる病院になるための改革を自ら行っていかなければならないと考えている。
当院も慢性期を主体とする病院として、「医療の質向上」に取り組んでいる。
「医療の質向上」とは、(1)医療を提供する者の技術的要素、(2)医療を提供する者と患者様との相互信頼関係、(3)医療が提供される療養環境の適切さ(快適性と安全性)を改善し、向上させていくことだと考えている。
当院におけるCIは、診療のプロセスやアウトカムについて数値化し、目標値を定め、それが達成されているかどうかを評価するために活用している。つまり、過去のCIと比較し、何がどれだけ改善されたか、どのような問題点や課題があるのかを検討し、更に新しい目標を決めて医療の質の改善を図っていくためのものである。
慢性期病院でのCIは、診療やケアの改善を図りたい事柄のうち、データの測定や収集、把握が現場で容易にでき、評価が簡単なものを項目にすることが考えられる。例えば、褥瘡の入院中新規発症率、口腔清潔度改善率、転倒転落発生率などである。
実際に現場にCIを導入するに際しては、まず現状把握と業務改善による業務の軽減が必要であろう。例えば、従来は看護師の業務であった搬送、洗体、事務処理などを他の職種の仕事とし、看護師の看護業務時間の増加を図ることにより、看護密度を上げるようにするなどである。
また、職員を対象に実施した「医療の質に関するアンケート」の結果から、当院での問題点として、マンパワー不足、能力不足、チーム医療ができていない、医師のコミュニケーション不足などがあげられた。これらの結果をもとに診療部の改革にも現在、取り組んでいる。まずは医師の医療技術・知識の向上やコミュニケーション能力の向上を図ることを目標に、学会や研修会へ参加しやすい体制作り、回診の義務付け、行動指標遵守の評価などからはじめている。
今後、慢性期の病院においても気管切開やIVHなど急性期医療に近い技術が求められることが考えられよう。そこで、このような医療技術を忘れかけている医師を再教育する研修病院や研修機関の設置を病院団体に求めていきたい。
機能評価としては、慢性期病院の医療の質を確保するためにも、当老人の専門医療を考える会の老人病院機能評価マニュアルの活用が有効であると考えている。(17/5/31)