現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第77号
ニードは高いのに自立した活動ができない
在宅リハビリテーション事情について
いばらき診療所理事長 照沼秀也

 在宅医療は介護保険導入を機に、訪問看護や、ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイと急速に戦力がそろってきました。特に訪問看護とデイサービスの充実は目を見張るものがあります。ところが、在宅リハビリテーションは一人取り残された感があります。

 では、現状の在宅リハビリテーションはどうなっているのでしょうか。

 患者さんのニードはかなり多岐にわたっています。つまり、急性期から回復期、そして慢性期の患者さんまでさまざまな患者さんがいます。

 たとえば、在宅で多発性脳梗塞による若干痴呆のある方が肺炎になったとします。診断的には血液検査もできますしポータブルのレントゲン撮影もできます。また治療的には抗生剤の点滴治療もできますが、早期離床が大原則の訪問リハビリテーションはこのような現場に入れないのです。このため下肢の廃用症候群になり寝たきりになるケースが後をたちません。この結果介護費用が発生します。

 というのも在宅リハビリテーションの現状があまりすっきりしていない点にあります。

 現実問題として在宅のリハビリテーションスタッフはあまり多くありません。そのため多くの在宅リハビリテーションスタッフが訪問看護ステーションの所属になり、やどかり活動をしています。(医療機関のリハビリテーションスタッフも理論上考えられますが現実的には活動は皆無です)

 またリハビリテーションスタッフには訪問看護ステーションを有機的に活性化した特別訪問リハビリテーション指示も認められていません。
これでは今後急速に増える在宅リハビリテーション事情にこたえられません。

 このような弊害をなくすために、できれば、訪問リハビリテーションステーションをサテライト展開できる制度改革があればよいと思われます。その場合、活動内容としては特別リハビリテーション指示書ができれば当面は何とかなります。

 また長期的視野に立ちますと、リハビリテーションスタッフの充足が求められます。

 現状で在宅リハビリテーションのニードは患者さん一〇〇〇人に対しておおむね三〇〇人前後です。在宅医療を受ける患者さんの三〇%は何らかのリハビリテーションの必要性があります。言い換えればおおむね要介護2以上の患者さんの三〇%といってもよいかもしれません。(在宅医療の場合癌のターミナルの患者さんや神経難病の方も含みますので単純にはいきませんが)

 そもそも、現在のリハビリテーションスタッフ養成の基礎データは施設ケアをもとに算定されていて、在宅ケアにこれだけのニードがあることは考えられていませんでした。このようなことがわかっただけでも介護保険制度になってよかったと思われます。

 今後、在宅リハビリテーションの現状をさらに明らかにする必要がありましょうが、在宅リハビリテーションの制度改革とリハビリテーションスタッフの養成は急務と言わざるを得ません。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE