現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第76号
これからの老人病院での接遇
柴田病院理事長 柴田勝博

 前理事長である父から理事長職を引き継いで、この四月でちょうど三年になります。「老人医療とは?」との問いにまだわからない事ばかりの私ですが、機会をいただきましたので発言させていただきます。

 今、多くの病院がリハビリテーションに力を入れており、当院も私が引き継いでから積極的にリハビリテーションを行なっています。リハビリテーションは現在、急性期・回復期・維持期・終末期と分かれていることはご存知だと思います。回復期リハビリテーションにより自宅退院率は上昇したと思いますが、いろいろな病院の統計でも六〇〜七〇%で、やはり一〇〇%は無理のようです。したがって残りの三〇〜四〇%の方は長期療養の可能な病院か施設に移ることになり、当院は、その自宅退院できなかった方を受け入れています。回復期リハビリテーションを受け、当院に入院される方は四十歳代・五十歳代が多くいます。今までの接遇は高齢者だけの対応でよかったのですが、これからはそれではいけないという例がありました。

 一般的に高齢者に対する声かけは堅苦しくても駄目な場合も多く、私自身も「○○さん、どこか痛えとこはねーかなあ」と岡山弁丸出しで、まるで友達に話すような声かけをして関係を作っていくようにしていました。このような状態に当院の職員もどっぷりと浸かっていました。

 しかし今回、ある入院患者の家族からクレームがありました。四十歳代の男性が入院され、一週間後にその奥様が「どうしてなーなーで話をするのですか」と、職員から馴れ馴れしい声かけをされたことに立腹されていました。その若い職員は身に付いたコミュニケーション方法を使っただけで、またその声かけしか知らなかったのです。

 今までは当院には長期療養を希望される方のみが入院されていましたが、当院のリハビリテーション機能がアップしたため、回復期からの要請も増え、入院患者の年齢層が下がってきています。平均年齢でみれば、八一・四歳でほとんどの方は後期高齢者ですが、年齢層の幅も広がりを持つにつれ、このように患者からの直接の声が聞こえるようになって来ました。今回のクレームをきっかけに、職員教育の見直しの必要性を感じています。職員から入院患者へ一律の対応をするのではなく、まず一人一人の患者とラポールをきっちりとれるようにしなければなりません。それがあって始めて、コミュニケーションがスムーズにいくようになります。

 また新人職員に対して高齢者に対する接遇は「なぜこうするのか」という理由をしっかり理解させることが大切で、理解ができてはじめて様々な患者への声かけのバリエーションができると思います。先輩職員のしている風景をみてただまねるだけでは、同じこと繰り返しなのではと再確認させられました。「職員教育を徹底すればよい!」と言うのは簡単ですが実際には難しいものです。

 現在医療制度や診療報酬がめまぐるしく変わっており、リハビリテーションに力を入れている病院も多く、当院と同じような例をもたれている病院もあるかと思います。本来ならば老人の専門医療をしたいのですが、残念ながら時代の流れがそうさせてくれないような感じがします。(17/3/31)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE