現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第75号 |
今、東京の在宅医療の惨状を大画面で見ている状況です。病院であれ、診療所であれ、医師から的確な病状説明を得ると言うのは、都民にとって困難な場合が多いようです。臨床経験の深さと経験年数は全く相関性もなく、諸所に自前の医療を勝手流に提供されているようです。
例えば、軽度の失語症の人が、首の調子が悪いので近くの診療所で相談したら、よく診察もせずに感冒とのことで投薬を受けていました。回復が思わしくなく別の病院を受診したら、変形性頚椎症の診断で「床上安静」で入院加療させられてしまいました。トイレに行きたいと訴えても「持続導尿をしているから、安心しろ!」と言われ、果ては身体拘束を受ける始末です。その後は仙骨部の褥瘡・被害妄想などが出て、家族の強い希望で自宅退院となりました。
この方が当クリニックに相談にみえたのですが、前院では入院後の説明もなく、時期が来た(?)ので退院許可を出したのでしょうが、こんな病院がまだあるのだなあと思いました。
また、中規模以上の病院からの紹介利用者についても大同小異で、服薬指導は出来合いのプリントを渡すだけ、検査結果は尋ねても説明せず、「概ね大丈夫」の一言。病態の説明に至っては、家族にもほとんど行わないような状況です。
歩行困難一つにしても、神経内科に行けばパーキンソン症候群で抗パ剤、整形外科に行けば脊柱管狭窄症でブロックや消炎鎮痛剤・ノイロトロピンなど、どちらも後はリハビリが必要ですということで、当クリニック紹介となっています。その多くは廃用症候群が重なっています。加齢によるものが主体であったり、脊髄小脳変性症であったりと様々ですが、内服薬の要らない人がほとんどです。
そんな折、十年ほどアメリカで働いていた虎の門病院勤務医時代の同期の看護師が三年位前に帰国しており、こんなメールをくれました。
『外国人から見ると日本の医療体制は疑問が一杯です。外国人社会の中にいると何度も日本の医療への批判を聞かされます。辛辣ですが、彼らが言っていることが本当なので何も言い返せません。私も日本の医療をあまり信用してないのが本音です。
今勤めている学校の学園長が、七月にフィリピンで乳がんの手術をしました。五月頃、保健室に来て、胸のしこりが気になるから見てくれというのでチェックしたら、大き目のしこりがあったので、家族歴もあることから早急に病院にいって調べるように勧めました。彼女はすぐ近くの病院に行ってエコーをしてもらいました。「結果は異常なし」ということでした。
そして夏休みでフィリピンに戻ったとき、そこの病院でみてもらったら、最初はわからなかったのですが、家族歴もあるのでもう一度やってみたら癌が見つかり手術ということになったようです。
なぜ日本の医療でそこまで考慮して検査できなかったのでしょうか。このケースは特別な例ではなく、何件もそういう話を聞きます。これは、日本の医療が患者中心の医療じゃないから?一人一人の患者を親身に診ていないから?
この間も朝日新聞で「いまどき、乳がんで死ぬ人はいないと医者が笑い飛ばしていたのに、数ヶ月後にその医者の妻が乳がんで死んだ」という記事が載っていました。
これってやりきれないですね。アメリカなら訴訟ですよ。』