現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第74号 |
このたび鳴門市から民間移管(民設民営方式)を受け、社会福祉法人を新設し養護老人ホームを管理運営することとなった。公開公募であったが、既設の社会福祉法人を含めた県内の施設・個人が数ヶ所参加した。当方は社会福祉法人の新設と施設の新築計画の両方を二週間あまりで行なったが、市の選定委員会の審査で何とか選ばれた。
近年の国家財政の困窮等による改革や削減の影響で、今回の補助金や融資についても数回の書類の差し替えを求められ、最終的に建設補助金は二ヵ年計画で承認されたが、設備・備品関係の補助はいただけなかった。かように補助金財政が厳しく、再来年以降の予算が不確定であるため、各地で既に認可を受けた補助金事業の申請辞退までもが見られているとのことである。
介護老人福祉施設と違い、養護老人ホームは措置制度で運営され、介護保険施設に入所できない高齢者や経済的理由でケアハウス等を利用できない低所得者層の受け皿としての機能を有する。言い換えると、「アウトペイシャントの施設」もしくは措置制度で入れる「プアマンズ・ケアハウス」と考えられる。
一般に施設に移り住むには居心地の良さが求められ、QOLの追求は当然である。昔は四・三平米の病院なども家より住み心地の良いところであったが、今では生活レベルも向上、アメニティのレベルも高くなり、ケアハウス、介護施設や病院においても個室化、さらにはユニットケアの推進などが制度としてだけでなく、利用者側からも求められている。
徳島県内の養護老人ホーム十八ヶ所の実態調査によると、ここ数年ケアハウスなどの新しい施設が出来たことなどにより少しずつ低下しているが全体でみた入所率は八十九%である。しかし施設間の格差が大きく、新しく、個室を主体とした施設では満床が続き、待機者もいるが、築後三十年近く経ち、多人室(四人、三人)を主とした施設では五十%前後の入所率である。今回移管元である鳴門市の養護老人ホームも定員六十人だが、十年ほど前から入所者三十人前後でここ数年では二十人以下が続いている。見学者があっても入所しないようなケースがしばしばあるとのことだった。
かような現実では養護老人ホームでもケアハウス同様なアメニティの確保が必須であると考え、今回の施設では生活環境として全室を個室とした。さらに一番基本のプライバシーを考察、各個室と食堂等のユーティリティスペースにトイレを設置した。そして十室を一ユニット単位として食堂等を配置し、各階二単位×三フロアで合計定員六十人。また夫婦の入所を想定し、各ユニットに一つずつコネクティングルームとしての使用も可能な部屋を用意した。
当医療法人ではこの養護老人ホームを生活支援・介護の基本に何が必要かを見極めるための施設として活用し、今後予定している病院や老健施設の改造改築、そして全体のシステムの構築に生かしたいと考えている。
現在、全国の養護老人ホームのまだ半数近くが公設公営で、老朽化が進んでおり、改築等が必要な時期となっている。そのため地方自治体立の施設では行財政改革等の方向性も含め民間委託の方向に向かっている。皆様にも今後のケアシステムの一つとして養護老人ホームを考慮されることをおすすめする。