現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第73号 |
早いもので「老人の専門医療を考える会」に入会させていただき八年余になります。この会の存在を知って以来、入会することは私の夢でしたが、入会審査を受ける直前に、自信がなく申し込みを辞退したことも、今では懐かしい思い出です。
医療界で何かと批判にさらされ、マイナーな立場にあった「老人医療」を変えるべく、設立当初より尽力してこられた「老人の専門医療を考える会」の先生方の努力は大変なものがあったと思います。
かつての「注射づけ」「検査づけ」「薬づけ」の出来高払いの世界から、定額制に移行した平成二年四月の「入院医療管理料制度」の制定は、この会の活動の賜物です。この制度が実現しなければ、当院は倒産していたと思います。余裕の出来た分、人手を大幅に増やすことができるようになり、職員の労働条件も改善しました。
平成四年から六年にかけて、自家製の褥瘡ゼロをめざして取り組むことができたことも、平成六年から九年にかけてのMDS‐RAPsのケアプラン勉強会、平成十年十月の「抑制廃止福岡宣言」も、包括性なしにはでき得なかったことです。
平成十二年四月の介護保険制度施行後は、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設の三施設の間での「選ばれる施設」をめざし、「ケアの質の向上」に努めてきました。
ところがここ数年の間に、我々を取りまく環境は急速に変化しています。介護保険三施設に加え、グループホーム、高齢者アパート、ケアハウス、特定入所施設等様々に、高齢者の「住む所」が拡がり、そのほとんどが個室です。価格帯も色々で、最近は低価格帯のものも増えてきました。
「抑制廃止福岡宣言」以後、ジャーナリストを含め、色々な人たちが当院を訪問されましたが、平成八年に療養型病床群の完全型に病棟を転換し、療養環境がよくなっていたにもかかわらず、誰一人として多床室を中心とした当院に入りたいとは言われませんでした。また、積極的にオムツはずしに取り組む中で、特に多床室の中でのオムツはずしが利用者の尊厳を傷つけることに気づかされました。
そのような中、職員からも自分達が入りたくなるような施設がほしいとの声が出始め、平成十四年九月に介護保険適用の九〇床の病床をすべて個室・ユニット化にしました。
約一年九ヶ月を経た今、二十四時間医療を提供できる療養病床が「生活の場」へ転換すれば、「ターミナルを看れる院内グループホーム」「院内ホスピス」としても機能することを実感しています。
一昨年十一月に亡くなられた外山義京都大学大学院教授が、生前、療養型病床が個室・ユニット化し、「生活の場」を取り込めば、老人医療・看護・介護の場で一挙に先頭ランナーに踊り出るかもしれないと言っておられました。今後、「老人の専門医療を考える会」の仲間の病院で、療養環境に「生活の場」をとりいれる病院が続いてくれることを願っています。