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老人医療NEWS第78号
高齢者医療制度は実現するのか

 厚生労働省の社会保険審議会医療保険部会は、来年の医療保険改革で柱となるといわれていた高齢者医療制度の導入について、本格的に議論を開始した。もともとこの問題については、いくつもの案が立案され、消えていった。今回の検討は、三度目で、計画では今年二月から検討を始めるはずであったが、三カ月遅れでスタートしたことになる。
 今回の高齢者医療制度の基本方針では、現行の老人保健制度を廃止して、七十五歳以上の後期高齢者医療を別建ての独立制度にするもので、社会保険方式を維持することがすでに閣議決定されている。
 制度改革のねらいは、後期高齢者に公費を重点化することにある。つまり、七十五歳以上に公費を集中し、前期高齢者については国保や被用者保険に加入し、現行の公費負担を結果として引き下げ、保険者間の負担の不均衡について制度間で調整しようとするものである。
 今のところ健保連や日本経団連などの財界の主張は、年金制度などとの関連で「六十五歳以上」を対象とする独立保険とすることを求めており、厚労省案に反対している。
 また、全国市長会は、基本的に現行制度下での財政調整方式を主張するとともに、本音では市町村が保険者となること自体に負担を感じており、これも完全に厚労省案に反対である。
 だれがみても反対する制度案を厚労省がなぜ審議会にだしたのであろうか。それは、政府が「高齢者医療改革」を行うという決定をしているからである。しかし、どう考えてもまとまる案ではないだろう。
 市町村が保険者である国保は、いわゆる老人医療無料化で財政危機に陥り、その反省から昭和五十七年に老健制度が発足したが、それ以降も人口の高齢化が伸展し、独立の保険制度としては維持することができず、五割程度の租税と、他の保険者からの財政調整という名の強制的支援によって、かろうじて制度を存続させている。
 平成十二年に介護保険制度が施行され、四十歳以上の国民全てが保険料を支払い、集まった保険料と同額を租税から拠出して基金をつくり、利用者からも一割負担してもらうという仕組がスタートした。現行の国保や老健制度よりも介護保険制度はスッキリした制度で、保険料も市町村ごとに設定されているので、地域格差はそれぞれの市町村で解決する仕組となっている。
 われわれ老人の専門医療を考える会としては、明確な対案があるわけでないので、高齢者医療改革に賛否を表明することはできない。高齢者医療の一翼を担うわれわれは、医療費の負担と給付に重大な関心があるのは当然であるが、単純な疑問として、『なぜ、高齢者医療の本質やサービスの質が議論されないのか』という強い疑問がある。
 医療内容について、年齢による差別を行うことは、許されないことであるが、小児科医療とそれ以外の医療に差があることは、だれの目にも明らかであろう。これと同じように老年科にも、精神科にも専門性がある。このことがまったく考慮されずに、高齢者医療改革が進展するはずはないと考えられる。
 老人の専門医療は、欧米の老年科と同じように、一般内科、老年精神科、リハビリテーション科を基盤とした医療であるが、チーム医療を基本とし、ターミナルケアや認知症に対する専門的対応を目的としているのである。
 高齢者医療制度が独立することによって、その専門性が十分に認知されるのであれば、われわれも賛成しやすい。しかし、単なる財政対策で、各団体の利害対立のみが強調された高齢者不在の議論には反対だ。(17/5/31)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE