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老人医療NEWS第77号 |
介護保険改正法案が国会で順調に審議されている。いろいろな意見もあるのだろうが、この法律案の目的規定に「要介護状態となった高齢者等の尊厳の保持を明確化する」ことが盛り込まれていることを高く評価しておきたい。
我々、老年専門医が絶えず確認しなくてはならないのは、患者様の尊厳を決して冒してはならないということである。言葉としても重いが、このことを毎日のように確認することが老人の専門医療のスタートだと思う。要介護高齢者の尊厳が保持されていない状態を、我々は体験として知る立場にあるし、場合によっては人間にとって最も基本的な人権である尊厳を傷つけてしまう側になってしまうこともあり得る。
入院されてくる患者様のうち、怯えきった様子の方にお目にかかることは、決してまれなことではない。ご家庭や何らかの施設でひどい目に遭ったと想像せざるを得ないこともある。わが国では、老人虐待が大きな社会問題として取り上げられたのはつい最近のことである。家庭内暴力や児童虐待と比べても、取り組み自体低調である。
老人の尊厳が傷つけられたという事実を発見するのは、看護師であったり医師であったりする場合が多いが、よく考えてみると「見てみないふりをする」と批判されるかもしれない。我々はもっともっと老人の尊厳に対して敏感である必要があると思う。
さて、尊厳ということを考えるにつけ、リハビリテーションが名誉回復とか復権という意味であり、そこから社会復帰とか更正を意味するようになったことも忘れてはならない。要介護者の自立支援するための介護保険サービスという位置づけも要介護者の尊厳の保持と同じ様なニュアンスであると思うし、全てに万能ではないにしてもリハビリテーションが尊厳の保持に役立っていると理解したい。
今回の改正案では、介護予防という新しい考え方が提案されている。我々は、寝たきりや痴呆、あるいは廃用症候群やターミナルケアについて多くのことを主張してきたが、介護予防という発想は、あまり強くなかった。それは、なんとか質の高いケアを提供することばかり考えてきたので、要介護状態を予防するということに集中できなかったということでもある。
この意味で、今後一層研究して介護予防に関する活動を強化したいと思う。また、介護予防は、要介護状態に陥らない一次予防も大切だが、リハビリテーションも三次予防という考え方で取り組みたいと思う。
介護予防小規模多機能型居宅介護や介護予防認知症対応型共同生活介護というものが、どのようなものか理解できないが、前者が文字通り小規模で介護予防という観点からのケアが重視されるのであれば素晴らしい。また、後者が介護予防のためのグループホームなら新しい試みであろう。いろいろ考えてみても、結局は実践してみて成果を見守るよりしようがないと思う。
いずれにせよ、介護保険で提供するサービスは、介護予防とリハビリテーションを重視しなければならないということが新しい原則になって欲しい。特に、小規模な施設はよりきめこまやかなケアや家庭的雰囲気のサービスが可能であるが、外部から目が届きにくいとか、ひとり一人の職員の資質が直接ケアに影響するということもあるので、しっかりとした教育研修およびマネジメントが必要だと思う。
尊厳の保持という老人ケアの基本が再認識され、地域密着型介護予防サービス事業という新しい考え方が導入されることにより、老人の専門医療がもう一歩前進して欲しい。(17/3/31)