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老人医療NEWS第76号 |
介護保険制度見直し作業が一段落し、これから国会審議となる。五年後の見直しということもあって、与野党対決案ということにはならないであろう。
それにしても最近、介護療養型医療施設の人気が霞ヶ関で低下しているように思えてならない。老人の専門医療の確立・向上という当会の主張は、ほぼ受け入れられているにもかかわらずである。介護保険制度が創設され、実施されてから四年が経過したが、特養、老健、介護療養型の介護保険三施設では、政治力もある特養が、一番人気となってきている。これは、特養人気というより、個室ユニットケアという大宣伝が、都市部のサラリーマン層に支持されているといったことと無関係ではない。
地方で病院経営をしている立場では、個室化もユニットケアも挑戦したいのだが、室料差額を支払うことのできる要介護者が極めて少ない。一日五千円程度の負担でも、希望する家族は皆無という地域もある。個室化に経済的裏付けがあるというのなら話しは別だが、よく分からない。
特養の療養環境が良いことは、自らも特養経営している理事長が当会に多数いるので、よく理解している。しかし、それは補助金漬けの結果であったことも事実である。
介護保険制度立案の課程で「今の要介護者ではない、将来の被用者年金受給者のための制度としてどのようなものが相応しいのかを検討する」という趣旨の発表を旧厚生省の幹部の講演で聞いたことがある。このことは、実は、都市部でこれから老年を迎えるサラリーマンや公務員のために介護保険制度を考えるということであって、すでに現在、要介護者になっている人々を主な対象としていないということであろう。
家族介護も当てにできず、都市部で老後を過ごす元サラリーマン達は、年金の範囲で特養の個室が利用可能であれば、その方がいいと判断するのは、しごく自然かもしれない。
介護療養型もいずれ、個室・ユニットにするしか方向はないし、むしろ老人の専門医療の質の向上という意味では賛成だが、今すぐにはできない。これは老健も同様である。
なぜ、霞ヶ関は「特養がお好きか」を考えると、一番安い、人も少ない、行政のいうことをきく、数が多い、おまけに医療的なことでこまかくいわないし、イメージもいいということであろう。
特養と比較してばかりではあまりなので、再度、なぜ介護療養型が介護保険で不人気かということを考えてみる。
結局、介護保険で高齢者の長期療養は全て対応しようとして、約十九万床でスタートするはずが、結局十三万床で打ち止めになってしまい、その後、しっかりした介護療養型から、特殊疾患や回復期リハビリテーションへ転出していった組と、目先の利益のみで介護から医療保険対応に転換した組が続出した結果、要医療の要介護者は、介護療養型でなければ対応できないといった状況ではなくなった。それに、老健には社会復帰という旗印があり、特養には生活の場という理念がある。介護療養型の病院は、当然医療と看護、リハビリテーション、ソーシャルワーク、栄養管理などなどということになるが、全てに対応できるエクセレントな介護療養型が少ない。
さて、老人の専門医療を考える会としては、何よりも質の向上を最優先したいので、介護療養型の不人気の原因を再度検証し、なんとか質の向上策を取りまとめるとともに、これからの介護保険サービスの展開についても、積極的に提言したい。
この意味で、当会会員を始め、介護療養型医療施設の経営者は、一人一人がここ数年間で人気が低下していることを危機と認識することだ。