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老人医療NEWS第75号 |
介護保険制度の見直し議論で、介護保険施設の入院・入所者に食費や光熱費を求めたり、軽度の要介護者に対して単なる家事援助を制限し、筋力トレーニングや痴呆予防などを導入する案が固まったらしい。
十二月十日に社会保障審議会介護保険部会の第二十一回会合が開催され、意見書がまとまったことになっているものの、この意見書を読む限り、介護保険の範囲拡大(厚労省用語では制度の普遍化)をどのように考えるかどうかがメインで、食費や光熱費あるいは新介護予防給付について十分な説明があるわけではない。
実際に、部会での各委員の発言内容や、改めて各委員から直接話しを伺うと、委員のうち意見書に全面的に納得している、という人はいないことがわかる。
意見書には、事務局が掲示した意見に概ね了承する意見が多数を占めているとあるのが、明らかに議論が不十分であるという印象を与えてしまった。これは個人的意見ではなく、多くのジャーナリストや委員個人が異口同音だ。時間切れで幕というところか。
十二月十七日の日経新聞朝刊一面は「厚生労働省と財務省は十六日、七十五万人にのぼる特別養護老人ホームなどの介護保険施設の入所者に来年十月から食費・居住費の全面自己負担を求めることで合意した」と報道した。多分、この記事はスクープなのだろう。だが、一般庶民感覚からすると、もともと財務省と厚労省のデキレースで、合意があって部会を進めたのではないかと勘ぐらざるを得ないだろう。
制度の持続性などという言葉で利用者本人の負担増を求めざるを得ないというのであれば、よく説明すればよいことである。食費については、高齢者団体からも「若い人に迷惑ばかりかけられないし、払える者は払う」という声が高い一方で、「居住費などというあいまいな費用は払いたくない」という意見が大半であるという。それと「可能な施策は、前倒しする」という事務局の発言が過去にあったものの、負担だけ十月一日から増加することに関して、合意が得られているとは言い難い。
もっとましな進め方はないのであろうか。これでは「制度の普遍化」の議論は、仕切りなおし、ただただ利用者負担増だけが先行するということになってしまう。できれば負担増には反対だ。ただ、食費については、介護保険制度導入前の老人保健施設では、全額利用者負担であったし、特別養護老人ホーム入所者で、本人所得が高い場合、月額二十二万円支払っていた人々も都市部では多い。にもかかわらず、介護保険制度では、利用者負担を軽減し、わずか三年半後には、また負担増にするというのである。まるでジェットコースターに乗っているようである。
食費の全額利用者負担は、低所得者に十分配慮すれば、ぎりぎり容認せざるを得ないのであれば、その他のことについても対応を考えなければならない。
まず、医療保険の食費はどうするのかを、なるべく明確に公表すべきである。中医協が機能していないことは理解できるが、なんでもなし崩し的に負担増を求めることは、制度全体へのそれこそ「持続性」に欠ける結果になるのではないか。
つぎに、食費全額負担への対応、例えば治療食や管理栄養士などの減額あるいは栄養指導や、食事の質の維持などについて、どのようにするのかを早急に取りまとめて欲しい。
介護保険制度を創設すれば、介護保険料は年々増加し、利用者負担がいずれ増加するであろうことは、制度に織り込み済みであったと思う。したがって、負担増に全面的に反対するつもりはない。しかし負担強化しかないというのは無策だよな。