こぼれ話
老人医療NEWS第78号
これから求められる老年科の専門医師像あれこれ
小林記念病院医師 小林明子

日々、高齢者の医療に携わっていて思う医療や医師像について考えてみます。

◆可能な限り自らの生命力を引き出して、自然体での看取りをする。
水分摂取がままならないなど、生命維持から逸脱していると、医学的にも人間としても認められる状態でも、何故か心臓の拍動を続けている症例に出会うことがある。

◆上手に死の演出ができる。
日野原重明先生が提唱されている「医のアート」というべき症例に出会うときがある。死に至るまでの期間、何回か肺炎や骨折等の加療を繰り返したりしている間に、ご家族との人間関係を作っておく。

◆学問的見地に立った医療を説明できる。
エビデンスを踏まえた上での説明をし、家族との話し合いの上でチューブ等の使用を可能な限り少なくしていく医療を提供する。

◆現場のスタッフに信用・信頼がある。(コメディカルの人たち全員に)
常に学問や現場の医療の方向性にアンテナがはってある言動が確認できること。スタッフとカンファランスを繰り返しながら現場中心の介護・医療を提供していくことにより、納得のいく形で患者様を見送れたという満足感を共有していく。

◆家族の求めているものは何かをスタッフと共に語り、ケア・カンファランスをしつつ見極めていく眼力が優れている。リーダーとしての素質が感じられる。

◆家庭内の事情や経済力をも考慮した医療を提案できる。

◆疾病により違う終末期の見極めの早期決断。
治癒の方向へ持っていけるか、死へのステージになるか等。


◆看護・介護者に不安を持たせない医療を提供できる。
常にベッドサイドにいるのは介護・看護者であることを念頭に置き、スタッフが何でも質問できる人間関係を日常的に構築しておく。

◆スタッフがどのような医療、看護、介護を目標に働いているかを知って、聞いて、自分の信念をもその中に加え入れて一緒に展開していくことができる医療人、医師が望ましい。さらに、老年医療に熱意のある医師であって欲しい。

◆終末期を迎えられ、亡くなられた後、関わったスタッフと、可能ならばご家族も加わったカンファランスを開きたい。全過程をまとめることで、今後の医療ではどのように接することを要求されるのかを知り、医療従事者の成長の一助となるような環境作りを図って行きたい。

◆医師は病院の顔であり、働く仲間のリーダーでもある。言動や態度によりご家族・患者様を始め働く仲間への影響も強い。リーダーシップを取りながら互いの倖せを追求していく姿勢を持って欲しい。

◆患者様の満足は働くスタッフの満足にもつながっていくので、働く環境作りを整備することで仲間の意識向上と医療技術習得への足がかりを作っていく。常に職員を指導する立場にあり、協働していくことを自覚して欲しい。

◆健康な時の診療より、「老い」の準備としての教育や死を意識した生き方を語り合っておき、記録して欲しい。
終末期ステージになってからは、医師の考え方や話の仕方等によって、家族の考え方はどうも左右されてしまうように感じられることがままあり、上記のような医師の集団があればよいのではないかとの思いから列記してみました。

現実にはこのような理想的な医師はいないと思いますが、可能な限り近づきたいと願って日々勉強しています。(17/5/31)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE