こぼれ話
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老人医療NEWS第75号 |
私は、一九六七年(昭和四二年)に大学を卒業し、二年間の留学生活を含め足掛け二十七年間、大学と総合病院で脳神経外科の基礎研究と臨床を行い、一九九五年(平成七年)から慢性期医療(老人医療)を行う現在の病院に勤務している。早いものでこの仕事を始めて九年七ヶ月が過ぎた。
赴任して感じたことは、一般医療が医療の中心であり、慢性期医療はその副次的なものという考えが、職員全体にじわっとはびこっていることであった。私自身その空気の中に片足ぐらい入りかけていたようにも思える。
これは、医療内容の性格上やむをえない面はあろう。しかし、そのことによって、病院の役割が不明確になり、ただ漫然と業務をこなしていくということでは、慢性期医療そのものの役割と社会的責任さえ見失ってしまいかねない、と私自身思い始めた。そしてそんなことでは何よりも当院を選んでくれた患者様とご家族に申し訳ないことであった。
その後、職員の協力の下、「身体拘束廃止」、「終末期医療の取り組み」、「褥瘡の予防と治療」、「病棟再編」、「リハビリテーションをすべての患者様へ」、「日本医療機能評価機構の受審」、「ISO9001,14001の登録」、「車椅子の工夫」、「嚥下造影と嚥下訓練」、「特殊疾患療養病棟の取り組み」、「胃ろうへの積極的な取り組み」、「口腔ケア」、「在宅支援」、「職員の研修、研究の奨励」等の取り組みを行ってきた。職員はこれらの取り組みに、良くついてきてくれたと感謝している。
このような中で、第十二回日本療養病床協会全国研究会札幌大会を本年九月十日、十一日に主宰させていただいた。私はテーマを「療養病床の近未来〜北の大地からの提言〜」とした。
この会は私どもがこれまで培ってきた底力を示す良い機会と考え、また、このような機会を与えてくれた関係者に感謝しつつ大会準備を進めた。後は怖いのは、台風だな、と半分冗談をいっていた矢先に本物の台風がぐんぐん北上してきた。これはまずいと内心びくびくした。しかし、幸いなことに九月八日には台風はオホーツク海に消えていった。秋晴れの青空の下、学会は無事終了した。
どんな組織でもそうであろうが、大切なのはトップの情熱であり、チームワークである。それには誠実な幹部職員と職員の存在が欠かせない。当院では、診療部門も現副院長をはじめとして充実している。また、経営管理部長(渓仁会グループでは事務長をこう呼んでいる)、看護部長が極めて優秀、かつ協力的であったことはとても大きな力になっている。
私どもはこれまでいろいろな取り組みを行い、病院の質の向上に努めてきた。しかしこのようなソフト面中心の努力のみではいかんともしがたいことがあるのもまた事実である。その最大の懸案は箱物としての「療養環境」である。
当院は一九九六年(平成八年)に新棟を完成し、完全型の療養型病床群(当時)の基準をとることができた。しかし、当時、敷地に限界があったため、基準をクリアーするのに精一杯であった。一年ほど前より渓仁会本部とも交渉を重ね、理事会の承認も得、来年六月には新棟の着工を予定している。現在、「トイレ」、「浴室」、「病室、ナースステーション」、「厨房」、「その他の部屋等」の五つのワーキンググループで、熱気あふれる議論の真っ最中である。
医療情勢は厳しい話ばかりである。療養病床の将来についても不透明の部分が少なくないが、「療養病床の変革は、未だなかば」との考えの下で、渓仁会本部と当院の職員が一丸となって、もろもろの難局を克服していきたいと考えている。