アンテナ
|
老人医療NEWS第73号 |
今年は、熱帯夜が続く異常気象。オリンピックに米国大統領選が重なる年は、政治も社会もガタガタすることが多い。それとは無関係かもしれないが、今夏は、厚生労働省のアタリ年となっている。
年金改革、参議院選、社会保険庁問題、厚生省スキャンダルという一連の流れは流れとして、介護保険も医療保険制度改革も全く視界不良で何がどうなっているのかわからない。
この七月二十八日に、社会保障審議会第九回医療保険部会が開催された。その中心的議題は、高齢者医療制度であった。つまり、老人保健制度による老人医療の提供を廃止する方向について議論しているようだが、この時期にする議論なのかどうか大いに疑問である。というのは、介護保険制度改革の方向が決まっていない状態で、いくら高齢者医療制度を議論してもどうしようもないように思えるからである。
介護保険の方は、第十六回介護保険部会が、七月三十日に開催され、報告書の取りまとめ作業が行なわれた。なんと本文七十六ページという大変なしろものであるが、読み返してみても、どうもスッキリしない。何か議論らしい結論もないし、メインテーマであるはずの給付内容や介護報酬などのことについては、ファジーになっている。つまり、何をどうするかという報告書ではなく、何が問題になるかという観点でまとめているとしか言いようがない。その上、どこにもこうするという主張がない。読み疲れするしろものだ。
医療と介護は、切り離して議論できるものではないし、介護に医療を取り入れたので、個別な議論をしても、結局は双方の整合性を確保しなくてはならなくなる。
報告書案として示された「介護保険制度見直しに関する意見」で驚かされることは多いが、次のようなとりまとめはいかがなものだろう。
「介護ニーズの普遍性」を考えれば、六十五歳や四十歳といった年齢で制度を区分する合理性や必然性は見出し難い。(中略)ドイツとオランダについては、社会保険方式を採用しているが、どちらも、0歳児を含め、全年齢を対象とする介護サービスの保険給付を行なっている。こうしたことから見ても、「普遍的な制度」への発展は、社会保障システムとして当然の方向であると言える。
オイオイ。本当か。まさか学生のレポートではあるまい。
介護保険制度を全年齢対象とするのは、社会保障システムの当然の方向であると主張しているのである。
では、二〇〇〇年四月の介護保険制度実施は、当然の方向と逆行したことになるのではないか。医療保険や老人医療制度で年齢区分している例はいとまないが、それはどうなんだろう。もっとひどいのは「介護ニーズの普遍性」があるというが、それなら「医療ニーズに普遍性はない」といえるのか。こんな勉強不足で時代遅れの講談師のような議論に、われわれはいつまで付き合わされるのであろうか。
もう一つ、介護保険の議論がこの程度に過ぎないのに、医療保険の高齢者医療制度は、この先の議論が展開できるのであろうか。介護保険制度創設の前後で、さかんに高齢者医療制度は議論され、そして立ち消えになっていたものが、この時期に再燃したことのわけを厚労省は正確に説明して欲しい。
どう考えてみても、保険局と老健局が十分な話し合いを行なっていない。高齢者医療について、どっちつかずで真剣に考えていない。高齢者医療をばかにしている。というように邪推してしまうのは、悪いことか。
わが国の医療費も、介護保険費も大変なことになるから、しっかりと真剣に老人の専門医療を考えなくてはならないという同意を示すべきだ。