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老人医療NEWS第72号 |
成田空港から直接ロンドンヒースロー空港まで毎日六便が運行している。どの便のどのクラスで行くかということになると、選択が難しい。例えば、ファーストクラスがいいと思っても六便中二便には設定がない。エコノミークラスはどこでもあるが、JALのエグゼクティブ、クラブANAなどというビジネスクラスは、各社サービスに差がある。その上に、ヴァージンアトランティック航空が始めたプレミアムエコノミーというのがある。
プレミアムとは、どうも割り増しという意味らしく、エコノミーより高い運賃を支払うと、エコノミー以上、ビジネス以下のサービスが受けられる。ANAのプレミアムエコノミーは、レッグレスト付きで従来のシートピッチとシート幅が約二〇%拡大している。ただ、それ以外の食事などのサービスは、エコノミークラスと同等である。
話は変わるが、英国のブレア首相は、二〇〇〇年の国民保健サービス改革の目標として、入院待機リスト全廃、医療におけるファーストクラスサービスの提供を掲げた。それから四年が経過し、一部では医療サービスの改善がみられるものの、NHSで働く職員の不満、利用者からの医療サービスの質に関する疑問は、むしろ深まったように思えてならない。
国民全員に医療サービスを公平に提供することはすばらしいことであるし、大切なことである。しかし、その財源を確保することが困難で、どうしても医療費抑制という政策に進んでしまうということになるらしい。その結果、サービスの質を維持し、一層質を向上させるという意欲さえなくしてしまう医療従事者も生まれてしまう。
逆に、どんなことがあっても最高の医療を求める人々に対して、それを提供するが、費用はしっかり払ってもらうという考え方もあり、それを実践している国も決して少なくない。ただ、その前提として、すべての国民に公平にサービスを提供することは無理になってしまうということを覚悟しなくてはならない。
いつまでも、どこでも、だれにでも、最高の医療サービスを提供したいといくら努力しても、それを可能にする国は、今のところどこにもない。どのような医療システムが必要なのかということを考えてみても、何のために、誰のためにといったことについて、国民全体がひとつの方向に考え方がまとまることはないように思う。このあいまいさというか、ファジィな部分が医療の世界でも残る。ただ、多様であるが、なんとなく各自が耐えられるとか、あるいはガマンできるといった状況は、社会が平和であるということに他ならない。
老人医療は、とても多様であり、改めて最高の医療とは、どのようなサービスなのかを考えてみると、これが以外と難しい。ファーストクラスの機内サービスは、素晴らしいものであっても、病院入院中の高齢者のような多様性はないと思う。最高のキャビンに最高のシャンペンから始まり、いろいろなサービスを準備することは、病院内でも可能である。
わが国の老人医療全体は、どう考えてもエコノミークラスであり、やっとプレミアムエコノミーという段階になったと思う。素晴らしい食事やお酒を用意することで、病院内のクラスを上げることは容易であるが、それだけではどうにもならない。
これからの老人医療は、ビジネスやファーストクラスサービスの開発ということもテーマなのではないかと思う。なぜならば、プレミアムエコノミーでも、エコノミー症候群になるからであり、それを予防するサービスを開発する必要があるのと同じことだと思うからである。